2015.10.22

保険でも何でも“エンターテイナー”が求められている。そんな空気が静寂を破る。



さて、いきなりで恐縮ですが、エンターテインメントというのは人を楽しませる娯楽のことですね。
他方、保険は娯楽ではありません。


ここで、エンターテインメントと保険をむりくりリンクさせて、以下のように考えてみます。


保険に加入する

リスクを軽減する

安心感を得る

果敢にチャレンジできる環境が生まれる

結果として人生を楽しむことができる



こんな具合でいけば、人生というものを触媒にすることで、エンターテインメントと保険の関連性もナシよりのアリ、いや、アリよりのナシぐらいにはなってきそうです。





そんなことで、本題へと入っていきますが、ビジネスやマーケティングにおいては、「実は必要ないモノでも売らなければならない」という不文律的なものが存在しています。


消費者の立場から見てみます。

例えば、コンビニに行って、水と雑誌を買うとします。
この時、たくさん商品が並んでいる中から、何を基準にチョイスしているのでしょうか。
どうして、そのメーカーの水を選び、どうして、その編集社の雑誌を買うのでしょうか。


お気に入りだから、いつもそれを買っているから、パッケージがイケてるから、面白いから、まあ、いろいろあるでしょう。



では、それらがコンビニから忽然と姿を消したとすると、どうでしょう。


水については、他のメーカーの商品を買えば問題ないですね。
いや風味が違う!違うよね!違うんだよ!と研ぎ澄まされた味覚嗅覚を持つ人以外にとってみれば、全部同じ水です。
雑誌については、そもそも読者層がしっかり設定されていて、他の雑誌を買うことに足踏みするかもしれませんが、ネットで見ればいいや的な流れになる可能性が高く、代替情報は現代では溢れ返っています。


このように少し考えてみても、世の中には本当に必要なモノ以外も実はめちゃくちゃ売られていて、消費者はそれらを何気なく消費しているような市場環境が浮き彫りになってきますね。

市場では必要ないモノもたくさん売られている

市場では必要ないモノもたくさん売られている



ところで、普段の生活の中でアンテナを強めに張っていると分かることですが、本当の必需品に関しては、広告はほとんど見かけません。

電気やガス、塩や醤油の広告を見かけたことはありますか?
仮にあったとしても、それは認知を広げたい為のものではありません。
なぜなら、必需品なのだから、広告は不要な訳です。

一方で、必需品以外のモノは全て、広告を出さなければ売れない時代環境というのが、日本などの先進国では、とうの昔に到来しています。

日常生活において、あまり必要ないモノであっても、その広告に繰り返し触れていると、多くの消費者はそれが必要なモノだとイメージで繋げて、つい買ってしまいます。
たまにサブリミナル効果が問題視されるようなこともあったりしますね。

ちなみに、日本において、そのように消費者の意識にゴリゴリに働きかける役割を果たしてきた最たるツールが、テレビCMですね。
日本は国土が狭い割に人口が多い経済大国ですが、アメリカやヨーロッパ諸国と異なり、ケーブルテレビや衛生放送がそこまでの市民権を得ておらず、地上波の放送局が生活者への強大なリーチ力を有する国であるため、いわゆる民放のゴールデンタイムやプライムタイムのテレビ番組に広告を打つことが異様に効率が良い、ということになります。


こうして、実は必要ないモノでも売らなければならないという状況がどんどん深化した結果、世の中のビジネスや経済活動はどうなっていくかと言えば、いかにもマーケティング風に表しますが、「ファンクション(機能面)ではなく、エモーション(感情面)によって消費される時代」に移行していきます。

日常生活の中で、街中、百貨店、家電量販店、コンビニなどにある財やサービスを見渡してみても、機能的な面での大きな差はあってないようなものです。
日本をはじめとした豊かな国々では、商材レベルのボトムアップが繰り返され、幸せを感じる閾値はかなり上がっていると言っていいでしょう。
充分な機能があって当たり前、サービスが手厚くて当たり前、というように、ある程度踏み込んで比較検討しないと、商材毎の区別が付かなかったりします。
そして、そういう状況下では、ほぼ全ての消費行動において、エモーションのみで判断していると言っても過言ではなくなってきますね。

お気に入りだから、買う。
いつもそれを買っているから、買う。
パッケージがイケてるから、買う。
面白いから、買う。

こういうのは全て、感情、直感、習慣による消費行動として捉えることができそうです。
左脳グルグル!機能的にそれじゃないとダメだから!なぜなら!みたいな具合で選ぶことはほぼありません。


また別の見地から、マーケティング分野で4Pあるいは5P分析という基礎的なフレームワークがあります。
4つのPのうちの1つが、Product(商材=商品およびサービス)にあたり、商材の種類や分析の仕方などで若干変動しますが、Productをおおまかに以下3つのファクターに分けて思考するフレームワークです。
■内的価値(機能、性能など)
■外的価値(品質、デザインなど)
■付加価値(ポイントサービス、アフターフォローなど)

こう見た場合に、市場が機能的に飽和状態だとするならば、内的価値と付加価値には大きな差が生まれにくいので、要はどの商材も同じようなものなので、外的価値の光っている商材に軍配が上がりやすくなる、というのは想像に難くありません。

簡潔に言えば、だいたい同じ感じであれば見た目がイケてる方がイイよね、スタイリッシュな方がアガるよね、女優の誰々がCMに出てるし最高、みたいなことになってきて、気持ちが動いた方を手に取る、利用する傾向が強くなってきますね。

ファンクション(機能面)ではなく、エモーション(感情面)によって消費されていく

ファンクション(機能面)ではなく、エモーション(感情面)によって消費されていく



そんな中、現在日本ではAppleのiPhoneが爆速で普及しています。
世界的に見ても、日本は全スマホ保持者に占めるiPhoneの所持率が高い国です。
MMD研究所が行った2015年4月携帯端末購入に関する定点調査によると、iPhone所有率は50.1%で、スマホ所有者の半数はiPhoneを持っていることになります。

この理由について、通信キャリアの存在や日本人の国民性など、もっともらしい理屈でも考察はできますが、端的にエモーションに起因するところが大きいはずですね。

ほとんどのスマホユーザーは、電話とメールとインターネット環境、必要最低限の生活ツールアプリさえあれば事足ります。
今や普段の仕事や生活に求められる機能は、どのメーカーのどのスマホでも、不足なく満たされているので、必ずしもiPhoneである必要はありません。
ましてや、iPhoneは他のスマホよりも高価格な端末です。
最新機種のiPhone6sでは端末だけで10万円を超えるものもあります。
おまけに、iPhone新機種発売前には、徹夜までして店頭に並ぶような人が出現しています。

このような現象を引き起こしている要因について、コスト勘定や理詰めでは説明が付かないですね。
極めて面倒くさいですね。

そこで、とりあえずのエモーショナルな理由付けとして、こういうのはいかがでしょうか。


『iPhoneを持っていると気持ちいいから』


『デザインが美しいと思ったから』、『皆持っているから』、もちろんこういうのもエモーショナルではあるのですが、共通項としては狭いので、それらを包含してもう少し広義の捉え方で、『iPhoneを持っていると気持ちいいから』としておきましょう。
所有ステータスや体験も含めて購入しているという考え方が近いかもしれません。

共感が醸成されやすいように、スマホを例に出しましたが、飲食物、洋服、日用品など、あらゆる商材において同様のことが言えます。
周りの人に、なぜそれを持っているのか、なぜそれを使っているのか、なぜそれにしたのかを聞いてみると、表現のニュアンスはあるにしても、ほとんどの場合エモーショナルな回答が返ってきます。
そこにロジカルで明快な理由など不要であることが多いうえ、非常に見え辛くなっています。


また、広告にも話を振りますが、ファンクションに差がない状態が続くと、いざ価格勝負に入っていくので、広告には“価格が安い”という訴求が盛り込まれることが多くなります。
ポイント還元や懸賞品などを前面に出して、お得感を伝える広告も増えていきます。
もはや、完全なるコモディティ化の動勢です。
ところが、この価格やお得感というのはエモーションではなく、安いから買う、お得だから買うというのと、それがイイから買うというのでは、明らかに導線が異なりますね。

そして、商材がモロにコモディティ化した状態では、普通の差別化は困難なので、エモーションが重要になってくるということですが、そんな流れの中で、世の中の広告はクリエイティブ領域にピボットし始めて、優れた広告を表彰する広告祭のようなオフィシャルな祭典が世界規模で存在することになります。
広告のメッセージがその商材とは別に関係ないよね?ただインパクトがヤバい!みたいなことが、半ば当たり前のように消費者に受け入れられるようになります。

例えば、保険のCMを目にすることもあると思いますが、出演しているタレント、キャラクター、BGM、映像などが多少記憶に残ってはいても、そのCMがどの保険会社のもので、具体的にどんなサービスを提供しているかを結び付けて想起することは、比較的難しい作業です。


しかしながら、検討する段階で、ふと思い出してもらえれば選ばれやすくなる。
イメージ占有に長けているモノが選ばれやすくなる。
エモーションで優勢なモノが選ばれやすくなる。


こうなってくると、いよいよエンターテインメント性の有無という係数が露になってきます。

なぜiPhoneが選ばれるのか

なぜiPhoneが選ばれるのか



なおこのままいくと、今後さらにコモディティ化にドライブがかかると予想されるのですが、とは言うものの、圧倒的な機能的優位があれば、その商材は売れそうですよね。
人々が持つ潜在的課題を解決してくれる唯一のモノであれば、確実に売れそうですね。
そして、最初に市場に切り込む先行者であることは、何よりも重要です。

ここで改めて意識すべきことで、「売れる」と「買わせる」は本質的に異なるというのが、ひとつあります。

「売れる」というのは、語弊を恐れずに言えば、自然の摂理です。
ですが、現状のように商材の供給過多で差分が表出していない状況では、広告を主演とする「買わせる」仕組みが蔓延し、エスカレートしては、世の中の空気としてそれがあたかもオーガニックであるかのようになってしまうことは仕方なくなります。
手段の目的化が発生してしまいかねない状態です。

そこで、そんな手厳しい時代でもモノがちゃんと「売れる」ようになるために、他の飛行機がビュンビュン飛び交う中での低空飛行から雲の上に抜けるために、再定義みたいなところがますます大事になってきそうです。
切り口を変えたり、物の見方を少し変えたりすると、既存とは違った概念や価値を提供できるという解釈ですが、そういう再定義が上手くいけば、商材のベクトルが「売れる」に向かっていきます。
そこは広告に頼ることのない自走的な世界です。


一例として、日本でお札を数える時に指が滑らないようにするために使われている、指サックがありますが、所変わってアメリカのハリウッドの特殊メイキャップ業界において、この指サックが重宝されています。
特殊メイクのマスクなどは粘土で作るのですが、滑り止めのために付いているゴムのブツブツが、傷口などを再現する際に便利で、かつリアルに表現できるということで、大流行しています。


とにかく、変化を余儀なくされる時代では、再定義は不可欠でしょう。
別の言い方をすれば、イノベーションです。
インベンションというよりも、イノベーションが大切です。
全てをゼロから創り出さなければならないということではなく、既成物やインスピレーションの掛け合わせによって価値は見直されて上昇していくはずで、そもそも本当の意味でゼロから創造するなんてことはあまり現実的ではありません。

再定義の重要性

再定義の重要性



そして考えてみると、この再定義という行為は比較的、エンターテイナーが得意とする業です。


マイケル・ジャクソンの十八番パフォーマンスであるムーンウォークはあまりに有名ですが、あれは元々バックスライドというストリートダンスの技法で、20世紀前半にはすでに確立されていたモーションです。
それをマイケルがムーンウォークと名付けて披露したことで、全世界にその呼称で浸透していったという経緯があります。
再定義によって、世の中を席巻し、イメージを新たに置換した好例です。

映像にせよ、音楽にせよ、何にせよ、広くエンターテインメント領域では、フレーミングや編集による再定義が加えられることで、次々に真新しい価値が生み出されていく構造が見えてきます。



提供者が主導しているのではなく、消費者が主導している。
買わせるのではなく、買ってもらう。
マーケティング界隈ではそう叫ばれてだいぶ久しいですが、そんな状況では、より一層エンターテイナーであるべきで、人の心を動かすということを、とことん突き詰めていくことが求められるのかもしれません。

有名な大企業の商材が長年売れ続けているのは、莫大なリソースに基づく開発力や技術、そこから生み出されたファンクション以外に何が影響しているのか、いったい何が消費者を惹きつけているのかを、もっともっと洞察する必要がありそうですね。

例えば、エナジードリンクとして今やスタンダードになりつつあるレッドブル誕生のキッカケとなった栄養ドリンクは、大正製薬のリポビタンDだというのは有名な話です。
想像通り、栄養ドリンクとしてのファンクションはたいして変わりません。
ならば、世界中でレッドブルが支持され続けているのはなぜなのか、そういったことを考え抜くことで、また別のところから光が射してきそうです。


ブランドが強い、ブランディングが優れている、そう言われる企業、チーム、またそれを構成する個々人は、間違いなくエンターテイナーでしょう。

そして、マーケティングの真髄は、市場を盛り上げるエンターテイナーであり続けること、ただそれのみに宿るのかもしれません。






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