2017.12.01

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.9 (2/4)




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11:40 │ 武蔵小山/東京一長い商店街

バスストップ


/MUSASHIKOYAMA




バスは、五反田から武蔵小山へ。



東急目黒線が通る武蔵小山は、目黒まで3分、渋谷や品川まで15分弱という鬼のポジショニングで住宅も多く、雰囲気はいたって庶民的。

なお、一帯では戦後の闇市から続くスナック街が栄えたが、時代を経た区画整理によってその姿を消し、代わりに今風の居酒屋が増えてきているようだ。


武蔵小山商店街パルム



そして武蔵小山といえば、都内最長、約800mのアーケードがある「武蔵小山商店街パルム」が有名。



というわけで、ザ ロンゲスト ショッピング ストリート イン トキオを歩き、喋り、歩き、喋り、喋り、歩き、歩き、喋りの、吸い込まれるように和食屋へ。


フィン



そこでフィンは、天丼にサラダ、豆腐、デザートなどが付いた、ボリューム満点のレディースセットを注文。



よほど空腹だったのか、運ばれてくるや否や、目を輝かせてパクついた。


レディースセット



―――もう、日本の和食って最高ですよね。特にお寿司大好き。

「寿司って、外国人ウケほぼ百発百中だよね。もはや和食だったっけみたいな」




フィンは器用に箸を使い、テンポ良く食べ続ける。





「箸、上手だね」

―――イギリスでも日本食は食べてましたから。




得意げな彼女に、変な圧でイギリスの食について聞いてみる。




「イギリスってさ、食べ物にそんなに比重を置かない文化っていうか、そこまで食に対して情熱的じゃない印象があるんだけど」

―――あぁ。まぁ、イギリスの食べ物は他の国に比べると美味しくないですね。

「やっぱり、そう思うんだ。イギリスのメニューで何が好き?」

―――う~ん、母がミートパイをよく作ってくれてて、それは美味しかったな。伝統的なイギリス料理で、バターたっぷりのパイ生地の中に牛のひき肉を入れて焼き上げるんですよ。


フィン



ここで彼女の家族の話に。

フィンは三姉妹の長女。
父が広告カメラマンで、何不自由ない生活を送ってきたらしい。
また、イギリスの夏は日照時間が短いため、暖かい気候が好きな母の希望で、幼い頃はバカンスでスペインなどによく行っていたのだとか。
さらに、幼少期からフランス、イタリア、ギリシャなど、様々な国を訪れる中で語学に興味を持ち、大学ではイタリア語とフランス語を専攻。
今では、日本語を含め4ヶ国語を自在に操ることができるという。





「日本語も、まだこっちに来て2年ぐらいしか経ってないのに相当上手いよね」

―――大学で日本語の勉強もしてましたし、あと、住む前にも一度、一橋大学に留学していたので。

「両親は心配してるでしょ」

―――心配はしてますけど、しょうがないですね。一応自分の力で生活できてますし、もう大人ですし。たまにお母さんから、帰ってこないの?って連絡はありますけど。

「日本に来てからは、まだ1回も帰ってない?」

―――はい。お正月とかも帰らずにクラブ行ったりパーティ行ったりして過ごしてます。まあ、イギリス、遠いですからね。


13:15 │ 目黒郵便局/大御所テーマパーク

バスストップ


/MEGURO-YUBINKYOKU




腹ごしらえの後は、武蔵小山から目黒方面へ移動。



フィン



―――お腹一杯だし、バスの中はあったかいし、気持ちいいです。

「今から目黒にある有名な建築物、見に行くよ」

―――へぇ、いいですね!

「日本ならではの感じを象徴してるっていうか、まあ、楽しみにしててよ」





目黒郵便局前でバスを降り、目黒川方向へ目黒通りを散歩。

なお、目黒通りは“家具屋通り”とも言われ、小洒落たインテリアショップや雑貨屋がそこかしこに点在し、他にもダイニングバーやスイーツ店などが並ぶ人気ストリートである。

フィン

目黒通りと山手通りの交差点にある大鳥神社で酉の市が開催されていた



―――楽しいですね。この辺は初めて来ました。

「ところで、ラブホテルって何か分かる?」

―――分かります。イギリスにいたときも、日本にはそういう場所があるって聞いてました。でも、初めて聞いたときはウソだと思ったし、実際に見るまでは信じられなかったですね。入ったことはないです。

「そう、これが面白くて、中にカラオケがあるのは普通で、ブランコがあったり、風呂のジャグジーが七色に光ったり、なぜか水車が回ってたり、川が流れてる部屋なんかもあったりして、小さいテーマパークだよね」

―――マジ!?

「マジ。で、今から行くところはかなり有名なラブホテルで、お城みたいなルックスしてる」

―――お城?





大鳥神社から信号を渡り直進、目黒川の前を右折してすぐ、その名物ホテルは現れる。

城と聞いて、バリバリ訝しげなフィンだったが、シンデレラ城のごとき老舗ラブホテルを目の当たりにし、分かりやすく口をあんぐりさせる。

エンペラー



「ホテル 目黒エンペラー」は、伝説の高級ラブホテルと名高く、昔は深夜にCMが盛んに流され、70年代のテレビドラマのロケに使われるなど、文字通り一世を風靡。

今現在でも地方に行けばお城を模したラブホテルは多いわけだが、それらはすべてエンペラーを元ネタにしたというくらいの草分け的存在なのだ。


フィン




―――なんか、本当にお城みたい。

「そうでしょ。でも、近くで見ると、やっぱり年代を感じさせるね」

―――たしかに。




そう言って、フィンは微妙に震える。

風が冷たいせいか、何かに感動したのか、いずれにせよ日本の異文化に触れ、大いに刺激を受けたに違いないのである。






さてさて、そんな調子で次に向かうは、これまた大人気の一級住宅街、学芸大学。

アーバンな散策はまだまだ続く。


路線バス






◇写真:鈴木清美
◇構成:前田レイ







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