2017.06.20

房総半島の「鋸山」が冒険心を掻き立てやがり、だからボクたちは山を登りやがる

千葉:標高330m:登山ビギナーにも◎


昨今、“若者の○○離れ”が取り沙汰される一方、逆に若者たちは新たな分野に触手を伸ばしていて、そのひとつが登山である。
そうして、山ガールが熱い!的なことになるわけだ。

これ系の話は、だいたい日本のクリスマスやハロウィンなどと同じ原理で、市場経済というのは愉快である。
人間は合理的な活動を行うという前提に立ちながら、空気は意図的に作るというのが実に高尚だ。



それはさておき、これまでいろんな秘境に足を運んできた筆者だが、実のところ登山は未経験である。
悲しいかな、富士山にも登ったことがない。
だからこそ今回は、この場を借りて、山登り導入編を!と思い立った。



千葉県は南房総近辺に、「鋸山(のこぎりやま)」というエッジのスゴい山があるのをご存知だろうか。

鋸山は、江戸時代から良質な石材の産地として採石が行われてきた場所で、石を削った結果、露出した山肌が鋸の刃に見えることから、その名で呼ばれるようになったのだとか。
そして何より標高330mという、小慣れた登山家からすれば丘レベルの小さな山だが、登山初心者にとってはちょうどいい高さであること、この上ない。


また、鋸山には山頂部一帯に「鋸山 日本寺」という約1,300年前に開山したお寺があり、さらには、石製大仏座像としては日本一の大きさを誇る「薬師瑠璃光如来」や、「地獄のぞき」というこれまた物騒な名の絶叫スポットもあるらしい。



ということで観光がてら、都内から房総半島まで車をブイブイ走らせ、鋸山へ。


Hiho Hiho to ノコギリヤマ


鋸山は、新宿から車で約1時間半の距離。
初台南料金所から首都高速中央環状線に入り、大井JCTを横浜・中環大井南出口方面へと進む。
大井JCT後すぐの分岐点を右に進み、標識の“横浜”に従って首都高速湾岸線をしばらく走る。
川崎浮島JCTまで来たら浮島出口方面に進み、そのままアクアラインを通って東京湾を横断だ。

なお、アクアラインのおかげで、東京から房総エリアへのアクセスは非常に良好である。
もしもアクアラインがなければ、東京湾沿いをマルっとドライブしなければならない。
もちろん湾岸線をゆったり走るのも気持ちいいドライブなのだが、目的がある場合は、やはり早く到着したいもの。
アクアライン建設プロジェクトに関わった全ての関係者に、Thanks, you are my angel.と伝えよう。



そんでもって、風を感じながら、木更津JCTまで来たら館山方面に進み、分岐点を右に行って館山自動車道に入る。
あとはひたすらババーっと車を走らせ、富津館山道路をガガーっと経て、富津金谷ICから下道にドドーっと降りて、少しの間ドナドナーっと行くのみ。




鋸山では、ロープウェイを使って山頂付近まで登ることができるのだが、今回は登山メインなので、登山口の最寄り、浜金谷駅の近くにある、笹生肉店の裏の駐車場に車を停めた。

鋸山登山道



登山口へは、歩いて数分。
途中に看板があるので迷うことはない。



そして登山コースは全部で3つ。
初心者にオススメの『車力道』コース、中級者向きの『関東ふれあいの道』コース、本格的な登山道『安兵衛・沢』コース。

なお、車力道とは、鋸山から切り出した石材を運ぶために造った道で、ところどころに荷車のわだちが残っているようだ。



筆者はこの日、長袖長ズボンにスニーカーと、やや装備がスベっていることもあり、松竹梅なら竹を選ぶという日本人気質全開で『関東ふれあいの道』を進むことに。





入り口はこんな感じ。

関東ふれあいの道の入り口



どこまで続くか分からない階段を前に、初手から詰んだ感が襲ってくるが、なんだかんだで大丈夫だろう、これまでの人生でもいろいろあったけど大丈夫だったじゃないかという、極めて詰めの甘い思考パターンと共に、いざ登山開始。


案の定ちょい舐めてたハードな鋸山


その後、登山口から約50分。
黙々と、淡々と、登り続けた。

というより、意外とハードで、景色を楽しむ余裕はなかった。



いやはや、世の登山愛好家たちは山登りのどこに魅力を感じるのだろうか。
息は上がるし、次第に足も上がらなくなる。
しかし、山頂は一切見えてこない。
標高330mの鋸山でも、この感じである。

きっと、マラソンとかトライアスロンとかが大好きな部類の人たちなんだろうなぁ。
ある程度のマゾっ気が必要なんだろうなぁ。



そんな独善的な想いを携えながらも、ひたすら先へと進んでいく。

だが、山頂に近づいてくると、少し雰囲気が変わってくる。
それまで山の中を延々と登っているだけだったのだが、ビューポイント的な場所がチラホラと現れるのだ。




例えば、江戸時代から昭和まで採石をしていたという「石切り場跡」。

石切り場跡



削られた山肌はまるで要塞のようで、訪れた観光客が、なんかラピュタみたい!と感動するようなこともあるらしい。

まあ、たしかにラピュタ感を認めなくもないが、前回の猿島といい、地球上にラピュタっぽい場所どんだけあんだよ!もはやメタファーのボキャブラリーの問題だろ!とツッコみたくもなる。
しかし、ラピュタがイメージとして強いのだから仕方ない。
先行者優位で純粋想起できるレベルになったもん勝ちである。




それから、石切り場跡を少し奥に進むと、下界を一望できる展望台風の場所がある。
そこから見下ろした風景がこちら。

鋸山から



見渡す限りの大自然。

どことなく亜熱帯の密林を思わせる眺めで、未発見の動植物がいそうな温度感にワクワクする。
ただ断っておくが、亜熱帯に行ったことはない。

そして、これまで行った秘境の中でも、10本の指に入るほどの絶景だと言っていい。
ただ断っておくが、まだ10ヶ所も行っていない。




この他にも見所は結構あるが、「鋸山 日本寺」にそそられるので、石切り場跡よりも少し手前にある分岐点まで戻り、「鋸山 日本寺」方面に向かう。


崖と大仏の圧がキてる


そんなこんなで、約15分で「鋸山 日本寺」に到着。


「鋸山 日本寺」には4つの入り口があり、登山客は北口事務所から入ることになる。
参拝料の600円を払い、職員さんにお寺についての説明を受けたら、いよいよ境内を散策。




北口事務所のすぐそばには、「百尺観音」という30m級の巨大石像が。

百尺観音



百尺観音は世界戦争で戦死、病没、殉難した人々の供養、また交通事故犠牲者の供養を目的に造られたもので、石材を切り取った跡の壁面に直接掘られている。

やり直しがきかない状況で、ここまで完成度の高いものを作る職人さんって、スゴくスゴい。





さらに少し進むと、「地獄のぞき」に続く階段に出る。
またもや階段だが、道の悪い登山道に比べれば屁でもない。


階段多すぎよ!強靭な足腰は不要よ!スリムな下半身を目指しているのよ!みたいなニュアンスの愚痴を漏らす有閑マダムを尻目に、地獄へと続く階段を駆け上がる。
地獄に向かっていくというのも変な話だが、「地獄のぞき」とは要するに崖のことだ。

地獄のぞき



崖といっても、きちんと柵が設けられているので安心。




横から見るとこんな画。

地獄のぞき



こう見ると、柵から淵まで多少の距離があるのだが、その場に立つと、かなりギリギリに立っている感じに思えるから、改めて人間の主観は当てにならぬ。
総じて、誰も信用できぬぞ!みたいなことになり得る。

なるほど、“崖っぷちに立たされる”とはこういう状況か。
いろんな意味で勉強になるではないか。




そうやって訳の分からんことをゴチャゴチャ考えながら、房総半島から東京湾までを一望する絶景をしばらく楽しんだところで、石製大仏座像としては日本一の大仏様を拝みに行くことに。


その大仏は、「地獄のぞき」のある山頂エリアからしばらく下った、大仏広場にある。
広場に行くまでの道すがらにも「百躰観音」や「千五百羅漢道」があるので、仏像好きであれば、ただ歩いているだけで満足できるだろう。




鎌倉や奈良の大仏を差し置いて、日本一のタイトルを獲得した大仏「薬師瑠璃光如来」とはいかほどか。


はい、ご対面。

薬師瑠璃光如来


高さは約31m。
奈良の大仏は約18m、鎌倉の大仏は約13mなので、その差は歴然。
横に置いたらマトリョーシカっぽくなりそうである。


なお、現在の薬師瑠璃光如来は世界平和や万世太平の象徴として、昭和44年に復元されたもので、制作にはおよそ4年の歳月が費やされている。
もとは江戸時代中期に建てられたが、風蝕によって崩壊してしまっていたらしい。

石像なり絵画なり、昔のものを復元するなんて並大抵の技術ではできないだろう。
やはり、職人さんって、スゴくスゴい。





大仏様のご威光と職人技に驚嘆した後、境内の散策を続けながら、鋸山で唯一食事ができる「山頂展望食堂」に向けて歩みを進めた。


絶品ご当地ラーメンとの出会い


前回の猿島の旅では、ご当地グルメを堪能できず肩透かしを食らったが、ここ鋸山には、ロープウェイがある建物の上階に「山頂展望食堂」がある。


そこでは、近くの金谷漁港で獲れた新鮮な魚介を使った料理をはじめ、様々な食事を提供している。




この日、注文したのは“かじめラーメン”。

かじめラーメン



あまり聞き慣れない名前だが、いわゆる海藻系ラーメンのことだ。
“かじめ”はめかぶのように粘り気のある海藻で、この地域では当たり前のように食べられているらしい。
また、“かじめ”にはミネラル、ポリフェノール、アルギン酸、食物繊維が豊富に含まれていて、美容と健康にいい食材とされているという。

つまり、ものすごく簡潔に言うと、ヘルシーなラーメンということである。

かじめラーメン



分かるだろうか、この粘り気。
油でテカっているのではなく、“かじめ”から出た成分がスープに光沢を与えているのだ。


あと、よく混ぜた方が旨味が増すらしい。

では、いただきます。






うおぉぉぉ!
ぅおらぁぁぁ!
いえぇぇぇぇい!
ぬるぅんってしてるぅ!
粘り気のあるスープが麺に絡んでるぅ!
とぅるっとぅるだぜぇ!
いえぇぇぇぇぇい!




というわけで、後にも先にも、これまで食べてきたラーメンとは異なる新食感。
海藻独特の風味は若干あるものの、コリコリした食感がやみつきになる。
スープはあっさり醤油ベース。
麺はストレートな細麺。
そこに“かじめ”のほんのりとした青臭さと甘みが混ざって全体的にさっぱり。

東京で出してくれるお店があれば定期的に通いたいぐらいだが、そもそも“かじめ”の水揚げ量は少ないというから残念。






食事を終えると、時刻は15時。

ロープウェイで麓まで降りて、完。

ロープウェイ



あとがき


千葉の南、房総半島と聞くと、都心からは遠いイメージを持つ人も多いが、アクアラインを使えばどうってことはない。

鋸山は、登山のみならず、日本の文化や歴史を感じられる小粋な観光スポットで、特に晴れた日の展望台からの眺めはハンパなく、グルメも割とハンパない。
登山はハンパなく面倒だという人でも、山頂付近まで車で行くこともできるうえ、ロープウェイを利用すれば山頂まで5分足らずとハンパない効率の良さだ。
ちょっとハイキングでもしてやろうかウエーイ♪みたいなハンパなく軽い気持ちで訪れても特に問題なし。


そんな鋸山のハンパなさにつられ、締め方の力技感もハンパない。




◇text:日下部貴士/A4studio


「鋸山」INFO


■住所
千葉県安房郡鋸南町鋸山

■電話番号
0470-55-1103

■営業時間
鋸山 日本寺/8時~17時
鋸山ロープウェイ/9時~17時(2月16日~11月15日)、9時~16時(11月16日~2月15日)

■定休日
無休
※ロープウェイは毎年1月中旬頃に検査で1週間程度営業休止

■料金
鋸山 日本寺の拝観料 600円
ロープウェーの運賃 500円







NEXT/STORY