(公開日:2024年9月25日)
自動車の運転には常に事故のリスクがともないます。相手がいる事故だけではなく、ちょっとした不注意から電柱にぶつかったり、ガードレールにこすったりと相手がいない事故を起こしてしまうこともあります。このような運転者が単独で起こす事故を「自損事故」と呼びます。
自損事故では、相手方となる車(相手の運転者)が存在しません。そのため、「万が一、自損事故を起こした場合はどう対応すればよい?」「相手方のいない事故だけど警察を呼ぶべき?」と不安や疑問に思う方もいるのではないでしょうか。
この記事では、自損事故の具体例や自損事故を起こしたときの対処法を解説します。事故の内容別に適用される保険の補償、よくある質問についての解説もしています。ぜひ参考にしてください。
自損事故とは、運転中に運転者が単独で起こした事故のことで、「単独事故」とも呼ばれます。自損事故では相手方が存在しないため、全ての過失は運転者本人にあります。したがって、事故によるケガや物損はご自身で対処しなければなりません。
自損事故の具体例としては、運転操作を誤って塀や電柱にぶつかった、ガードレールにぶつけた、崖の下などに転落したケースなどがあげられます。
自損事故を起こしたらただちに運転を停止して、落ち着いて対処しましょう。以下では、自損事故時の対処法を5つの段階に分けて解説します。
【自損事故後の対処法】
それぞれの対処について、詳しくみていきましょう。
事故を起こした際は、相手がいる・いないにかかわらず、ただちに運転を停止しましょう。道路交通法では、運転停止義務は全ての事故が対象であり、相手方がいる事故に限った規定ではありません。その後、事故現場で人やものの被害状況を確認しましょう。
もしも車の同乗者などが負傷していた場合は、すぐに救護措置をとる義務があります。道路交通法第72条でも「交通事故にかかわった車両などの運転者や同乗者は、ただちに運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止するなど必要な措置を講じなければならない」と記載されています。
負傷の状況を確認し、必要に応じて救急車の手配や医療機関への搬送をおこないます。救護措置を怠った場合、救護義務違反、いわゆる「引き逃げ」になり罰せられます。
自損事故後は、二次被害が起こらないように、落ち着いて行動することが大切です。事故の度合いによっては車を安全な場所へ移動させ、後続車の妨げにならないように対処しましょう。
そのほか、後続車に「ハザードランプなどで事故の発生を知らせる」「道路上の破損物を取り除く」などの対応をおこない、二次被害を防ぎましょう。なお、こちらも法律で定められた義務のため、対応を怠った場合は罰則の対象となります。
事故を起こした際は、110番に連絡して警察へ報告する必要があります。
事故の大きさや人身・物損事故にかかわらず、道路交通法により交通事故が起きた場合は、運転者は警察に報告する義務があります。また、交通事故に関連する保険金の請求などで「交通事故証明書」が必要になるため、必ず報告しましょう。
警察に連絡する際は、事故を起こした場所や日時、死傷者の数、負傷者の負傷の程度、事故車の積載物、事故について講じた措置、損壊したもの・損壊の程度、ご自身の名前、連絡先などを伝えます。その後の対応は、警察の指示にしたがってください。
とくに痛みなどがなくても、衝突によって衝撃を受けた場合などは、医療機関を受診してください。また、事故が発生した日から期間を空けて受診すると、負傷の原因が事故にあることを特定できず、自動車保険などの補償を受けられないリスクがあるため注意しましょう。
上記に加えて、保険会社の事故受付センターなどへ連絡をし、必要な対応をとることも重要です。保険会社に連絡した際は、ご自身の自動車保険の証券番号やご自身の住所、氏名、連絡先、運転していた車のナンバープレートの番号、ケガの具合、車の損傷状況、事故が発生した日時や場所、道路状況などを聞かれる場合があるため、必要な情報を準備しておきましょう。
前述のように、道路交通法では、交通事故を起こした場合に警察への報告を義務付けています。つまり、警察を呼ばなかった場合は、法律違反となります。また、車両保険などの請求で必要な交通事故証明書は警察から交付されるため、報告をしないと証明書を受け取ることもできません。
さらに、自損事故で警察を呼ばずに後日連絡した場合、法律違反を問われる可能性のほか、事故の証明ができなくなる可能性もあります。相手がいないからといって警察に連絡しないと、場合によっては「当て逃げ」とみなされ、道路交通法により1年以下の懲役または10万円以下の罰金となることもあるため注意しましょう。
なお、当て逃げとは、ものを損壊させたにもかかわらずそのまま去る事故をいいます。
自損事故を起こした際には、その損害によって対象となる保険が異なります。
【自損事故の損害のケース】
以下では、ケースごとに対象となる保険を紹介します。
法律にもとづいて強制加入が義務付けられている自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責保険といいます)は、交通事故などで他人を死亡させたり、ケガをさせたりした「人身事故」に限り、相手への損害賠償に対して保険金が支払われます。
つまり、自損事故を起こした車の保有者・運転者ご自身の死亡やケガは補償対象外のため、保険金は支払われません。車の損害やガードレールなどの建造物の損害など、「物損事故」も補償対象外です。
ただし、民間の自動車保険(任意保険)に加入していれば、ご自身が自損事故で亡くなった場合やケガをした場合にも補償が適用されることがあります。たとえば、人身傷害補償保険や搭乗者傷害保険、自損事故保険などに加入している場合が該当します。
自損事故での自身の死亡・ケガに適用される任意保険 | |
---|---|
保険の名称 | 概要 |
人身傷害補償保険 | 運転者や同乗者などが死亡した場合や、ケガを負った場合の損害を補償する保険※1 |
搭乗者傷害保険 | 契約車に搭乗中の事故で、運転者や同乗者などが死亡したり、ケガを負ったりした場合に、その程度に応じた保険金が支払われる保険 |
自損事故保険 | 自損事故で、運転者などが死亡やケガを負った場合の損害を補償する保険 |
※1:契約車搭乗中の事故のみ補償されるタイプと、契約車以外の車に搭乗中の事故や車以外の乗用具に乗車中の事故、歩行中・自転車乗車中の自動車事故まで含めて補償されるタイプがある
なお、自損事故保険は、商品により「自損事故傷害特約」として付帯できる場合や、人身傷害保険の補償に含まれる場合があります。
自損事故で同乗者が亡くなった場合やケガをした場合は、自賠責保険の対象となります。
なお、補償される金額には限度があり、傷害による損害は120万円、後遺障害による損害は75万円~4,000万円、死亡による損害は3,000万円が上限です。
ただし、自賠責保険で不足する部分は、自動車保険(任意保険)の対人賠償保険や人身傷害保険、搭乗者傷害保険などに加入してカバーできる場合があります。
自賠責保険と任意保険の補償の違い
※(傷害の場合)120万円まで(死亡の場合)3,000万円まで(後遺障害)4,000万円まで
なお、同乗者が亡くなった場合やケガをした場合に補償が適用される任意保険は下表のとおりです。
同乗者が亡くなった場合やケガをした場合に補償が適用される任意保険 | |
---|---|
保険の名称 | 概要 |
対人賠償保険 | 契約車の事故で他人(家族を除く)を死亡させた場合や、ケガを負わせた場合の損害(損害賠償責任)を補償する保険 |
人身傷害保険 | 運転者や同乗者などが死亡した場合や、ケガを負った場合の損害を補償する保険 |
搭乗者傷害保険 | 契約車に搭乗中の事故で、運転者や同乗者などが死亡した場合や、ケガを負った場合に、あらかじめ定めた保険金が支払われる保険 |
事故が起きて損害が発生しても保険金が支払われないケースもあります。たとえば対人賠償保険では、同乗者が知人や友人の場合は補償されることがありますが、記名被保険者本人や運転者の父母、配偶者や子どもなどが同乗者の場合は一般的に補償されません。
自動車保険の詳細や自賠責保険と任意保険の違いを知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
自賠責保険では、車や建物などの損害を含む物損は補償されません。しかし、任意で加入する自動車保険の車両保険に加入していると、自損事故での車の損害が対象となる場合があります。
車両保険は、衝突や接触、盗難や火災、自然災害など、偶然の事故で車に損害が生じた場合を補償範囲とした保険です。車両保険にはいくつかの種類があり、通常、「車両保険(一般型)」と「車対車+A(エコノミー型)」の2種類が提供されています※2。
※2保険会社、商品によって、車両保険のタイプの名称、補償範囲が異なる場合があります。
車両保険は、種類により補償範囲が異なる点に注意しましょう。「車両保険(一般型)」は自損事故を含む広範囲の損害が補償される場合があります。一方、「車対車+A(エコノミー型)」は範囲が限定されており、自損事故は補償されない場合があります。
車両保険についてより詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
最後に、自損事故についてのよくある質問をQ&A形式で解説します。自損事故でわからない点がある場合は、ぜひ参考にしてください。
車両保険と一口にいっても、補償範囲は保険会社や商品によって異なります。たとえば、車同士の事故や盗難などが対象となる車両保険や自損事故、当て逃げまでカバーする車両保険などもあります。
そのため、自損事故による損害が補償される車両保険(自動車保険)に加入していれば、自損事故でも車両保険を使えます。自損事故まで補償の対象となるか、事前に確認しておきましょう。
前述のように、「車両保険(一般型)」は自損事故を含む広い範囲の損害をカバーしますが、「車対車+A(エコノミー型)」では通常、自損事故は補償範囲に含まれません。そのほか、補償範囲をご自身の希望にあわせて細かく選択できる車両保険も提供されています。
自損事故でも車両保険の補償を受けたい場合は、事前に契約内容を確認し、自損事故が補償範囲に含むタイプの車両保険を契約しましょう。
ただし、自損事故でも警察を呼ぶ必要があることを知らなかったために呼ばず、交通事故証明書の交付を受けていないときは、車両保険を使えない場合があります。また、そもそも車両保険なしの場合は、自損事故で車が損傷しても修理代は保険の補償対象とはならない点にも注意しましょう。
事故で自動車保険を使った場合は、通常、次年度の契約時に3等級ダウンします。自損事故の場合であれば、対人賠償保険や車両保険などの適用を受けたときが該当します。
なお、事故の内容によっては、1等級だけダウンする事故、等級がダウンしない「ノーカウント事故」も存在します。
等級が下がる事故・下がらない事故 | |||
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等級が下がる事故 | 等級が下がらない事故 | ||
事故 | 3等級ダウン事故 | 1等級ダウン事故 | ノーカウント事故 |
事故の例 |
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翌年の等級 | 1件の事故で翌年の等級が3等級下がる | 1件の事故で翌年の等級が1等級下がる | 翌年の等級への影響はない |
事故あり係数適用期間 | 3年間 | 1年間 | - |
たとえば、人身傷害保険事故や搭乗者傷害保険事故のみの場合、翌年の等級に影響はありません。自動車保険の等級は保険料にも関係するため、自損事故で自動車保険の適用を受ける場合は事故の内容にも注意しましょう。
なお、自動車保険の等級制度(ノンフリート等級制度)の詳細は、以下の記事をご覧ください。
自損事故は行政処分上、原則として無事故扱いです。他人への被害がない自損事故(物損事故)であれば違反点数も加算されません。そのほかに事故や違反がなければ、無事故・無違反のままとなり、ゴールド免許でなくなることもありません。
ただし、違反をしたうえでの自損事故の場合は減点対象になります。たとえば、他人の車やガードレールにぶつけて損傷したにもかかわらず、警察を呼ばずに逃走する、いわゆる「当て逃げ」行為は処罰の対象です。「当て逃げ」は少なくとも7点の違反点数が加算され、30日間の免許停止処分が課されます。また、10万円以下の罰金もしくは1年以下の懲役の対象となるため、違反とみなされないよう行動には注意が必要です。
自損事故による物損は自賠責保険が適用されないため、自動車保険(任意保険)への加入は安心できるカーライフを送るためにとても大切です。車の走行中は、どんなに安全運転を心がけていても事故に遭遇する可能性があります。自損事故に備え、ご自身や同乗者、車の損害などを補償できる自動車保険を探しましょう。
納得できる補償内容と保険料の自動車保険を探すときは、一括見積もりサイトを利用すると便利です。一括見積もりは、複数の保険会社に対し、一括で見積もり依頼ができるサービスです。必要な情報の入力が一度で済み、見積もり結果からご自身にあった補償内容や保険料などの比較・検討が可能なため、効率的に自動車保険を選びたい方におすすめです。そもそもどのような保険会社があるのかよくわからないといった場合にも気軽にご利用いただけます。
相手方のいない自損事故も交通事故のひとつです。自損事故では、建物やガードレールを破損したり、同乗者にケガを負わせてしまったりするケースがあります。事故の相手方がいない場合でも、事故を起こしたときは、安全を確保したうえで警察に必ず連絡しましょう。
なお、自損事故では対人賠償保険や車両保険などが対象となりますが、補償の内容は保険会社や保険の種類で違いがあります。また、事故で損害を受けた対象がなにかによって、適用される保険が異なります。たとえば、ご自身がケガをした場合は任意保険の人身傷害保険や自損事故保険、車が損傷した場合は任意保険の車両保険などから補償を受けられる可能性があります。
ただし、実際の補償の内容や範囲は、保険会社や商品によっても異なります。加入中の自動車保険の内容を確認し、必要に応じて見直すなどして、自損事故に備えましょう。
RAPPORT Consulting Office (ラポール・コンサルティング・オフィス)代表。名古屋大学工学部機械・航空工学科卒業。証券会社、生損保代理店での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。お金に関する相談や記事の執筆・監修を通じ、自身のお金の問題について自ら考え、行動できるようになってもらうための活動を行う。ミニマリストでもあり、ミニマリズムとマネープランニングを融合したシンプルで豊かな暮らしを提案している。趣味はサウナ(サウナ・スパプロフェッショナル)。
https://www.rapportco.com/
【保有資格】
1級ファイナンシャルプランニング技能士、日本FP協会会員(CFP®)
※CFP®、CERTIFIED FINANCIAL PLANNER®、およびサーティファイド ファイナンシャル プランナー®は、米国外においては Financial Planning Standards Board Ltd.(FPSB)の登録商標で、FPSBとのライセンス契約の下に、日本国内においてはNPO法人日本FP協会が商標の使用を認めています。
※このページの内容は、一般的な情報を掲載したものであり、個別の保険商品の補償/保障内容とは関係がありません。ご契約中の保険商品の補償/保障内容につきましては、ご契約中の保険会社にお問い合わせください。
※税制上・社会保険制度の取扱いは、このページの掲載開始日時点の税制・社会保険制度にもとづくもので、全ての情報を網羅するものではありません。将来的に税制の変更により計算方法・税率などが、また、社会保険制度が変わる場合もありますのでご注意ください。なお、個別の税務取扱いについては所轄の税務署または税理士などに、社会保険制度の個別の取扱いについては年金事務所または社会保険労務士などにご確認のうえ、ご自身の責任においてご判断ください。
( 掲載開始日:2024年9月25日 )
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