2016.11.14

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.1 (3/4)




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11:20 │ 築地三丁目/揺れる魚マルシェ

バスストップ


/TSUKIJI-SANCHÔME



銀座四丁目から再びバスに乗り、ふたつ先のバス停となる築地三丁目で下車すると、インド風建築でおなじみの築地本願寺が現れた。


「これ日本で有名なお寺なんだよ。そして道路を挟んだ向こう側が築地市場ね」


築地場外市場。豊洲に移転を予定しているのは、場内の東京中央卸売市場のみで、場外は移転後も築地に残る

築地場外市場。豊洲に移転を予定しているのは場内の東京中央卸売市場のみで、場外は移転後も築地に残る



―――えっ、築地市場ってこういうところなの!?初めて来たけど、なんかイメージと違ってちょっとビックリ。



よくよく話を聞いてみると、ジェリーがイメージしていた築地とは、マグロがズラリと並び、競りが行われているような築地場内市場であることが判明。
たしかに、テレビなどでもっぱら流れる築地の映像といえば、そちらかもしれない。




「こっちは築地場外市場で、通称“場外”っていう商店街エリアだね。飲食店のプロが買い物に来るところなんだけど、今はそれ以上に観光客も多いみたい」

―――築地は日本を紹介する外国のガイドブックに必ず載ってるからね。今まで来たことなかった私の方がモグリだと思う(笑)


海鮮丼やもつ煮、ラーメンやそばなど、あらゆる食の店舗が並ぶ、もんぜき通り

海鮮丼やもつ煮、ラーメンやそばなどの店舗が並ぶ、もんぜき通り



「そういえば、フランス語のマルシェ<市場>って最近は日本でも普通に使われてるんだよ。マーケットって言うよりは、マルシェって言った方が、ちょっとオシャレに聞こえるっていうか」

―――へぇ、マルシェってフランスだとオシャレなイメージは全然ないけどね(笑)。安いから、私は好きだけど。




スノビッシュを嫌う彼女にとっては、“マルシェ=おしゃれな市場”というイメージは少々滑稽なようだ。




築地というのは、“土地を築く”という名前からも分かるように、豊洲と同様、もともとは埋め立て地だった。
築地に移ってくる前、魚河岸は日本橋にあったのだが関東大震災で壊滅。
東京都中央卸売市場として築地市場が開場されたのは、1935年のことだ。


築地のビル:魚の絵



日本最大、いや世界最大級の規模を誇るこの魚マルシェは現在、移転問題で注目を浴びているわけだが、場外はいつも通りの活気に満ちている。
外国人の姿も、さっきまでいた銀座以上に多い気がする。


場外の表通りと言えるもんぜき通りは特に賑わっていて、歩道に置かれたテーブルで海鮮丼やらラーメンやらをかき込んでいる姿が、やけにおいしそうに見える。


するとジェリーが、衝撃的な一言をつぶやいた。


ジェリー・ピーチ:築地:もんぜき通り



―――実は私、ベジタリアンなんだよね。



魚を食べない人を、魚市場に喜び勇んで連れてきてしまったということか。
なんという初歩的ミス。



「それ知ってたら、連れてこなかったのに。ごめんね」

―――大丈夫。食べられないのは、お肉だけだから。



そ、そっか……!



「それは、あえてベジタリアンになったってこと?」

―――まあそうね。家畜の育て方とか殺し方が、動物にも人間にもあまり良くないように思えて、肉を食べるのやめちゃったの。もう2年くらい経つかな。魚は大好きだけどね。



店頭に並ぶ新鮮な日本の魚介類は、彼女にとって目新しいものが多いようで、自然と食べ物談義が始まる。


築地一丁目の街角に残る、昔ながらの銅板貼り看板建築の建物

築地一丁目の街角に残る、昔ながらの銅板貼り看板建築の建物



―――私が日本に来て一番ビックリした食べ物はナマコ。

「コリコリしておいしいんだよ。食べてみた?」


―――無理無理!!見た目でもう食べられなかった。生ガキも食べたことない。だってあれって生きてるんでしょ?

「生きてるっていうか、生っていうか。でも、フランス人は生ガキとか好きなイメージあるから意外だね」


―――日本人はあまり食べないと思うけど、カエルは大好き!骨がたくさんあって食べるのは面倒なんだけど、チキンみたいでおいしいんだよ。




食べ物に囲まれて食べ物の話をしていれば、当然お腹も空いてくる。
そろそろお昼にしたいところだが、これだけお店が多いと選ぶのもひと苦労だ。
行列ができているから当たり、とは限らないのが難しいところ。

ということで、あらかじめ用意してきた飲食店リストの中から、ジェリーはきっと気に入ってくれると信じ、通好みの店へ行くことに。
彼女が魚OKのベジタリアンで安堵。



路地裏でひっそり営む定食屋さんで、本日のイチオシという、のどぐろの煮つけ定食をチョイス。
朝から比べると、お互い緊張もほぐれ、ジェリーが大好きだというMIYAVIや黒沢清監督の映画から、ヨーロッパの移民問題、アメリカ大統領選挙まで、とにかく話が尽きない。


「白いご飯に合うものが大好き」とジェリー

「白いご飯に合うものが大好き」とジェリー



―――私ってナニジンなんだろうってときどき思うの。



ふわふわでトロトロののどぐろを食べながら、ジェリーは言う。



―――もちろんフランス人なんだろうけど、もう100%フランス人ではない気もするし。こうやって日本に住んでると、ときどきよく分からなくなる。

「日本人になりたいとは思うの?」


―――う~ん、どうかな。前に日本人の男の子と付き合ったことがあるんだけど、意見が合わなかったりすると“ジェリーはガイジンだから”って言われるのがすごくイヤだった。シャッター下ろされちゃった感じがするっていうか。



ふと、考えさせられた。
外国人と付き合ったことはないけれど、似たような形で無意識のうちにコミュニケーションを断絶することで、誰かを傷つけてしまっていることがあるのかもしれない。



―――フランス人でも日本人でもいろんな人がいるのは当たり前でしょ?私が何かやる度に“さすがフランス人”とか“やっぱりフランス人だね”って言うのは、ちょっと違う気がする。



ごめん。
少なからず外国人という色眼鏡を通して彼女を見ていたことを、心の中で謝ってみる。





―――ごちそうさま!!おいしかった!!


ジェリー・ピーチ:築地の定食屋


と、しっかり完食して満足そうなジェリー。



店を出ると、先ほどまでの喧騒がずいぶん落ち着いている。
時刻は午後2時。
築地は朝が早いだけに、昼過ぎに閉めてしまう店も多いのだ。


我々は築地六丁目のバス停から、豊洲の見える晴海埠頭へと向かうことにした。





◇写真:鈴木清美
◇構成:石井ミノル







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