2016.10.24

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.1 (1/4)

黒船ガールとバスさんぽ



日々変わり続ける大都市・東京。



知っているつもりでも発見の絶えないこの街は、

異国から来た彼女にどんな風に映るのだろう。



路線バスの発着地から終着地まで、

気ままにめぐる東京さんぽ。




都05(東京駅丸の内南口-晴海埠頭)都営バス



東京駅の入り組んだ地下から地上に出ると、間違えて顔を出してしまったモグラみたいに、場違いな気恥ずかしさを感じてしまう。


ビジネスマンが慌ただしく行き交う、こんな朝は特にそうだ。


東京駅

路線バスだけでなく、はとバスもチラホラ



9:00 │ 東京駅丸の内南口/赤レンガと喧騒

バスストップ


/TOKYO-EKI-MARUNOUCHI-MINAMI-GUCHI



東京駅丸の内南口。

赤レンガの駅舎は、改めて見ると威圧感たっぷりで、ますます気後れしてしまう。
周辺には、はとバスが数台停車していて、日常と非日常が混在している様が面白い。

そんな風景を眺めていると、向こうから長身スレンダーの女の子が金髪をなびかせ歩いてきた。
9頭身、いや、10頭身はありそうな常人離れしたスタイルで、背景の赤レンガが舞台装置と化し、そこだけファンタジーに見えてくる。





―――おはようございます。ジェリー・ピーチです。

ジェリー・ピーチ



キミがジェリー!?
現実に引き戻され、いきなり動揺。

そうだ、目の前で微笑むこの金髪美人と路線バスデートをすべく、東京駅丸の内南口のバス停でランデブーしていたのだ。
ただまあ、デートと思っているのはこちらだけで、平たく言ってしまえば東京案内なのだが。



そしてバス待ちしながら、用意していた小ネタを披露。




「東京駅ってどう?カッコいいでしょ?(さも、自分の持ち物のように)」

―――うん、そうね。


「長い間2階建てだったんだけど、2012年10月の復元工事で創建当時の3階建てに生まれ変わったんだよ」

―――へえ、そうなんだ。




話が続かない。




「とりあえず、バス乗ろっか」




通勤の時間帯ではあるものの、思いのほかバスは空いていた。
たしかに東京駅から有楽町の間をバス移動する人なんて、そうそういないだろう。
けれども歩けるくらいの距離をあえてバスに乗るところに、ささやかなこだわりがあるのだ。

ジェリー・ピーチ



路線バスという乗り物は、ルートを把握していないと乗りこなすことが難しい、ハイレベルかつ非常にローカルな公共交通機関と言える。
乗車口が前なのか後ろなのか、整理券を取る必要があるのか、運賃はどのタイミングで払うのかなど、バス会社によってルールが異なるため、初めて乗る路線だと日本人ですら混乱してしまう。
降りる直前にボタンを押すシステムにしても、バス停の順番や周辺の景色をある程度覚えてないと、うっかり乗り過ごしかねないし、誰がボタンを押すのか、さりげなく探り合う感じも微妙だ。


そんな高度な乗り物を、おそらく外国の人が乗りこなせるはずもなく、筆者が日本人代表としてアテンドする、というわけだ。

路線バスの“とまります”ボタン



そうして意気込んで乗車したものの、ICカードをピッとかざすと、やるべきことも教えてあげるべきことも特になくなってしまった。
料金一律で整理券も必要ないらしい。

しかも、ジェリーには何の迷いもなく、妙に慣れている感じが一層つらい。


“とまります”ボタンを押せた時の喜びについて語りたいところなのだが、このニュアンスを理解してもらうのも少々難しい。




こんな時こそ、質問タイムだ。




「ジェリーはどこから来たの?」

―――フランスよ。


「フランスのどこ?」

―――×××(発音が良すぎて聞き取れず)。松井がいたところ。


「(野球なわけないか)松井ってサッカーの?日本に来てどれくらい?」

―――2年3ヶ月かな。


「え、2年でそんなに日本語が上手なの?」

―――日本のことが好きで、フランスにいた時から独学してたの。難しい話とかはできないから、まだまだ上手じゃないけどね。


「いやいや、かなり上手だよ。日本の何が好きだったの?」




そこでなぜか照れる、ジェリー。
まさか日本人男性と付き合ってたとか?




―――えっとね、みやびって知ってる?


みやび、ミヤビ、雅…?
ミヤヴィか!


―――そう、ギタリストのMIYAVIがすっごい好きなの♡



なるほど。
聞けばジェリーは、フランスでは音楽の専門学校に通っていたそうで、日本でモデルなどの仕事をしながら現在もミュージシャンを目指しているのだとか。



―――日本への興味も、最初はMIYAVIから入ったの。ネットでいろんな動画を観たりしながら日本語を勉強して、音楽以外にもいろいろ広がっていった感じ。『花より男子』とか日本のドラマも観たよ。今も月9ドラマは必ず観てる。




なんだなんだ。
一介の日本人よりも全然、日本の流行りモノに詳しいではないか。
ジェリーの話す日本語が、語学学校で習うような無駄に丁重な言い回しではなく、妙に生っぽいというか、今っぽいのも納得だ。




そんなことを話しているうちに、バスは有楽町へ。



「降りるよ、ジェリー」


9:20 │ 有楽町駅前/カオス的異空間

バスストップ


/YURAKUCHÔ-EKIMAE


ジェリー・ピーチ

有楽町のガード下:雑多な雰囲気に心が躍る



東京国際フォーラムのような立派な建築物は素通りして、見せたかった場所へと向かう。




「ガード下って知ってる?」

―――来たことあるかも!たしか、アイリッシュパブがあったはず。



薄暗い通りを歩きながら、東京駅よりも俄然目が輝くジェリー。


―――こういう古いもの、結構好き。




彼女は開店前のお店をキョロキョロしつつ、昔の日本映画のポスターが貼られた一角に興味を示す。

ジェリー・ピーチ



「知ってる映画ありそう?」

―――クロサワアキラは知ってるけど、映画は観たことない。


「ちなみに日本人で一番好きな映画監督は?」

―――その人もクロサワっていうんだけど知ってるかなぁ?


「もしかして黒沢清?」

―――そう、一番好き!




ジェリーはかなりの日本通とみた。
こちらの静かな感動をよそに、おもむろにセルフィーに夢中になるあたりは、さすがに若者だ。
クールなビジュアルとのギャップを垣間見ることができて嬉しくなる。



この先盛り上がるのか一抹の不安はあるものの、とりあえず日本のサラリーマンの聖地を気に入ってくれたようで、つかみとしては悪くないか。

ジェリー・ピーチ



◇写真:鈴木清美
◇構成:石井ミノル







NEXT/STORY