2017.11.09

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.8 (4/4)




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16:10 │ 百花園前/玉の井ラビリンス

バスストップ


/HYAKKAENMAE






泪橋から南下し、百花園前で下車。



目的地は、玉の井跡地。



玉の井とは、戦前から1958年に売春防止法が施行されるまで、旧東京市向島区寺島町(現在の墨田区東向島五丁目、東向島六丁目、墨田三丁目)に存在した大私娼街。


東京で遊郭となると、現在は浅草の吉原が有名だが、昔は各地に遊郭があって、玉の井もそのひとつだった。
しかし、1945年の大空襲にて全焼。
487軒、1,200人の娼妓が焼け出され、路頭に迷うことになってしまったという。




そんな玉の井のよすがを探し、ケイリーンと街をそぞろ歩く。



しとしと降る雨の中、黒傘と白肌のコントラストがモードを帯びる。

ケイリーン

昔の趣きを感じさせる三角地帯の写真館



―――この写真館とか、古い感じしますね。

「面白い形の建築物だよね。三角の先とか、用途に困るよね」






この一帯は、昭和の文豪である永井荷風が通いつめ、名作『濹東綺譚』の舞台になったことでも知られるが、とにもかくにも路地が多いのが特徴的。

そのため、荷風はこの地を迷宮と形容したが、路地が多いのには理由がある。



玉の井は、大正7年頃に浅草の言問通り(ことといどおり)が拡張される際、近辺に存在した銘酒屋が移ってきたのが始まりとされている。

道路を作るよりも早くに銘酒屋が勝手に家を建てたために、結果、無秩序に入り組んだ路地ができてしまったらしい。





「ここ、普通の住宅街って感じだけど、60年前までは色街だったんだよね。それが東京大空襲で壊滅状態になったっていう」

―――なんか、今の感覚では信じられない話ですよね。





いろは通りなど、主に東向島五丁目あたりをウロチョロするものの、これという建築物が見つからない。



もう聞き込みしかない、ということで街の人に玉の井について伺う。



すると、店主が詳しいから聞いてみるといいと、『玉ノ井カフェ』をオススメされたので、入ってみることに。

ケイリーン



ここは、平たく言うと、玉の井の歴史を語り継ごうという趣旨のコミュニティカフェ。

店内には玉の井に関する書籍が並び、コーヒーや紅茶、スイーツなどを食べながら自由に閲覧できるようになっている。




早速、玉の井の歴史を探る。




しばらくして分かったのは、玉の井は、荷風以外にも檀一雄、太宰治、高村光太郎など数多くの文士が訪れた人気の色街だったこと。

また、戦後の玉の井は、いろは通りから北側の焼け残った住宅数十軒ほどで再開され、売春防止法施行まで細々と続いていたが、その頃はもう、玉の井から1kmほど離れた東京都墨田区向島と東向島の境界付近にあった、“鳩の街”という赤線地帯の方が人気があったという。
なお、艶やかな雰囲気を持つ女優、木の実ナナが生まれ育ったのが、鳩の街なのだとか。

ケイリーン



―――昔の玉の井の絵とか地図が描かれた本、とても面白いですよ。

「へぇ、ちょっと見せて」




玉の井カフェ特製のガトーショコラを食らいながら、さらに玉の井の客引きスタイルをスタディ。



玉の井にあった銘酒屋は、間口の狭い木造2階の長屋建で、店には女性が1人か2人。
接客する部屋は主に2階で、1階には通りに面して小窓が作られ、そこから店の女性が顔を覗かせ客を呼ぶというスタイルだったようだ。



路地を歩きながら、小窓から女性がふと顔を覗かせる様を想像してみると、秘めやかな恋の始まりといった様相が匂い、なんとなくユートピア的なロマンを感じてしまう。

ケイリーン



変に熱心な我々を見て、店のマダムが、独自に入手した貴重な玉の井の建造物の写真や地図を見せてくれた。

マダムいわく、赤線の頃の建物は現在ではほとんど残っていないらしい。

世間におおっぴらにするような文化ではないから国も積極的に建築物を残そうとはしないのではないか、というマダムの洞察が印象に残った。


ケイリーン



それから、カフェを出た後、いろは通りや東武東向島駅界隈を散策。





そこでも目を凝らしてはみたが、やはり昔の面影を見ることはできなかった。


ケイリーン

東武博物館の外に展示されていた記念電車・けごん



17:30 │ 亀戸駅前/雨煙り旅は華めく

バスストップ


/KAMEIDO-EKIMAE




東向島広小路から、7つのバス停を通り過ぎると、終点の亀戸駅前に行き着く。

亀戸天神で知られる総武線亀戸は、江戸時代から続く行楽地で、今も賑やかな繁華街。





ますます勢い付く雨のせいで、バスの窓には水滴が連綿と落ち、宵の街をやや幻想的に見せる。






「もう終着駅だけど、ここまでどうだった?」

―――最高でした!もともと散歩は大好きなんですけど、自分ではまず行かないようなところで興味深かったです。

「今後、日本でやりたいことって何?」

―――レギュラー的に食のレポーターをやりたいとは思ってます。私、和食が世界で一番好きですし、日本のいろんな県に行って、いろんな食を味わいながら、仕事を頑張りたいです。あと、バラエティ番組も、もっとやりたい。日本のバラエティ大好きなので。

「好きなタレントはいる?」

―――マツコ・デラックスさん。坂上忍さんも好きですね。本音を言っても愛されるってスゴいと思う。私も、ただの外国人として出演するんじゃなくて、ちゃんと自分だって分かる仕事ができるようになりたいなって。






頬を上気させながら未来を見据える彼女の心象風景は、幾分明るかった。


ケイリーン






◇写真:鈴木清美
◇構成:前田レイ




KAILENE FALLS

ケイリーン・フォールズ

アメリカ、ミネソタ州出身。デザイン事務所で働く傍ら、タレントとしてテレビ番組などに出演。その他、ドラマ台本の英文翻訳も手掛けている。







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