2017.09.15

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.7 (1/4)

黒船ガールとバスさんぽ



日々変わり続ける大都市・東京。



知っているつもりでも発見の絶えないこの街は、

異国から来た彼女にどんな風に映るのだろう。



路線バスの発着地から終着地まで、

気ままにめぐる東京さんぽ。




池11(池袋駅-中野駅)国際興業バス・関東バス



東京都豊島区は池袋。

“池袋”という地名は、現在の西池袋1丁目、ホテルメトロポリタン一帯にあった袋型の池が“袋池”と呼ばれていたことから名付けられたという。
いかにも、逆さにすることで語呂がなかなか改善しているから小気味良い。


そんなこんなの、大都会の喧騒を感じる東口に比べて、どことなく文化的で粛然たる雰囲気を醸す池袋駅西口バスターミナルにて、黒船ガールの襲来を待っていた。


10:00 │ 池袋駅西口/その御出まし純一無雑につき

バスストップ


/IKEBUKUROEKI-NISHIGUCHI





残暑厳しい曇天模様の空の下、突として麗しく、けたたましい声が響く。





―――おはようございまーす!!サブリナでーす!!


サブリナ



ダイナミックな元気と圧で現れたのは、トルコ出身のサブリナ・サイン。

『美少女戦士セーラームーン』のTシャツを着用し、愛と正義に満ち溢れた心憎い登場である。





「ヤバいね!気合い入ってるね」

―――はい!今日はアニメや漫画に関係あるところに行くって聞いたので、張り切って着てきちゃいました!これ、とってもお気に入りなんですよね。



ご自慢のTシャツを指差し、ニッコリ微笑むサブリナ。
クルクルと変わる表情と、悪戯っ子ライクな瞳が、印象的すぎる。




「普段、池袋には来る?」

―――いえ、それがあんまり来ないんですよ。

「乙女ロードって知らない?いわゆる腐女子の聖地なんだけど」

―――フジョシ??

「ボーイズラブとかが好きな感じの、腐った女の子のことなんだけど」

―――あぁ、じゃあワタシのことですね!ワタシ、めちゃめちゃ腐ってまーす!わーい!行きましょう行きましょう!




そう言って、そそくさと歩き出す、自称腐女子。

極めて好奇心旺盛なタイプのようで、こちらも良い意味で浮き足立ちまくってくる。





さて、乙女ロードとは、東京を代表する高層ビルヂング、サンシャイン60の西側の通りの通称である。
首都高速5号池袋線下のサンシャイン前交差点から、春日通りの東池袋三丁目交差点までの200mほどの道路で、その片側には、女性をターゲットにしたアニメグッズや同人誌などを扱う店舗が密集している。

なお、池袋にはもともと1980年代からアニメグッズを取り扱う店が点在するなど、男性客の多い秋葉原や中野に比べ、女性のオタクが集まりやすい環境だった。
さらに2000年にアニメイトが女性向けの傾向を強く打ち出したことを契機に、女性に特化した商品展開が目立つように。
現在では、女性が執事に扮して給仕してくれる執事喫茶なるものが話題になるなど、大いに盛り上がりを見せる。


サブリナ



乙女ロードに入ると、外国人観光客や未成年と思しき若い女の子のグループが、そこら中を意気揚々と散策している。

乙女たちの熱量に、サブリナも大興奮。




―――お!抱き枕とかあるよ!

「日本のアニメに詳しいらしいね」

―――そうなんです!セーラームーンで人生変わっちゃったって感じで。おかげで日本が好きになったんですよ。


サブリナ

上機嫌な乙女ロード



サブリナはトルコ南西部の地中海に面した観光都市、アンタルヤ出身。
14歳のときにトルコで放送していた『美少女戦士セーラームーン』にどっぷりハマって以来、日本に関心を持つようになり、独学で日本語を勉強。
その後YouTubeで日本のアニメをたくさん観るうちに、ジャニーズなどのアイドル文化にも興味を抱き始め、日本でアイドル活動をしたいという夢を持つようになったという。




「実家を出るの大変だったんじゃない?」

―――大変でしたね。絶対反対されると思ったから、必死でバイトして30万円貯めて、日本行きの飛行機のチケット買って、それを親に見せながら、とりあえず3ヶ月日本に行ってくるから止めてもダメよ!チケットもう買っちゃってるから!って、無理やり来ましたよ。




その突破力に静かに感心しつつ、やがてサンシャイン60通りにあるゲームセンターに到着。

サブリナ



当然こちらも腐女子仕様になっていて、プリクラやUFOキャッチャーなど、美少年アニメキャラの関連プロダクトが多く取り揃えられている。




―――あ!アイドリッシュセブンの特集してる!



まあ正直、ちんぷんかんぷんの異次元空間なのだが、そこで特集されているのは人気スマホ用アプリケーションゲーム『アイドリッシュセブン』というものだそう。
おそらく、アイドリッシュ的な者がセブンいらっしゃるのだろう。

サブリナ

腐女子仕様のゲームセンターでテンション爆上げ



「で、サブリナ、今はアイドルグループの一員なんだよね?」

―――そうなんです!“恥じらいレスキューJPN”っていうアイドルグループに所属しています。


サブリナ



加えて、彼女が東京に来たのは2011年11月で、当時日本は東日本大震災で揺れていた時期だったが、大好きな日本の役に立ちたいと居ても立ってもいられなくなり、来日を決意したのだという。

日本に来てしばらくは、同世代のカップルの家に月1万5千円でホームステイさせてもらい、その後は外国人専用のシェアハウスに宿泊。
4人1部屋で暮らし、2段ベッドで寝起きするというハードな生活だったが、その頃から現在に至るまで、トルコに帰りたい気持ちになったことは一度もないという。





―――成功するまで帰りたくないって気持ちが強くて。テレビ番組の企画で、トルコを出て4年後に1回だけ帰ったきり。

「そのとき両親にだいぶ怒られたんじゃない?」

―――うん、怒られました(笑)でも、今は帰ってる場合じゃないんですよね。日本で有名になるために芸能活動をもっと頑張らないといけないから。



そうして、おもむろにUFOキャッチャーのぬいぐるみに視線を戻し、無邪気に声を上げるサブリナ。
言うなれば彼女は、意志、覚悟、行動、そんな成功の基本原則の類いをシンプルに体現する、潔いセーラー戦士である。





コミカルなゲーセンを後にして、池袋駅前からバスに乗車。

サブリナ




次の目的地、南長崎三丁目に向かって、バスは悠々と進んでいく。

車中でもサブリナのバイタリティはとどまることを知らない。




―――バスってあんまり乗らないけど、ゆったりしてていいね!落ち着いてゲームできそう!



そう言うと、すかさずスマホを取り出し、セーラームーンで遊び始めるのだった。


サブリナ




さあ、この先に待つのは、漫画の神様に所縁のある場所である。


麗しのオタクの臨界点を越えてくることを、少しばかり期待して。






◇写真:鈴木清美
◇構成:前田レイ




SABRINA SAYIN

サブリナ・サイン

トルコ出身。中学生の頃にアニメ『美少女戦士セーラームーン』を観て衝撃を受け、高校卒業後の2011年に来日。2015年からはアイドルグループ“恥じらいレスキューJPN”のメンバーとして約2年間活動。その後もモデルや女優として活躍の場を広げている。Journeys in Japan(NHK)、「キシリクリスタル」CMなど出演実績多数。







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