2017.08.25

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.6 (4/4)




 BACK NUMBER



17:00 │ 高円寺駅北口/しなやかなる旅の仕舞い

バスストップ


/KÔENJIEKI-KITAGUCHI




野方からバスに乗り、終着地、高円寺へ。



赤羽から始まったハイカラトリップも、いよいよ大詰め。


環七

高円寺に向けて、路線バスは環七をひた走る



車中では、ウクライナの乗り物事情について盛り上がる。



―――ウクライナでは、電車に乗ることが多いかな。いまだに私が小さい頃に乗ってた型が走ってたりするしね。それに、私の子が電車に乗るのが好きだから、里帰りしたら一緒に乗ったりしてる。冷房のない車両に当たっちゃうようなハードな時間もあるんだけど、それでも乗りたいって言うから、よほど楽しいんだろうね。

「まあ、ロマンあるもんね、電車は」

―――そうそう。だから、私も昔を思い出しながら楽しんで乗ってる。あと、ウクライナにはお弁当の文化がないから、おにぎり作って持ち込んだりしてる。

「ウクライナに路線バスはある?」

―――あるよ。乗車賃がすっごい安くて、タクシーの20分の1くらいの値段で乗れたりするから重宝する。バス自体は小さくて古いものが多くて、近代的じゃないけどね。






そうして、バスは高円寺駅北口のロータリーに到着。

着くやいなや、我々はコンビニへと駆け込み、タオルやヘアゴムなど入浴グッズを購入。
高円寺には“ミルク風呂”で有名な銭湯「小杉湯」があり、ここは是非とも、温泉好きを公言するアンナにひとっ風呂浴びてもらおう、という企みである。




―――ウクライナは本当に良い国なんだけど、ひとつ日本に絶対かなわないところがある。温泉がないの!バーニャっていう、ロシア式のサウナはあるんだけどね。

「そうなんだ、え、どんなサウナ?」

―――身体を温めながら、水に漬けた白樺の葉の束で叩くの。叩くことで血行が良くなったり、白樺の葉の成分が身体に良かったりするのね。それで、熱くなったら外に出て、身体を冷やす。その繰り返し。東京だと後楽園のラクーアが大好き。最近も行ったんだけど、最高に癒やされたよ。1時間ほどプカーって湯に浮いてた。





そんなこんなの、歩くこと5分。
お目当ての小杉湯に到着したのだが、なんとこの日は、定休日。


おもいっきり呆然としつつ、ポーズをとるアンナをおもむろにシューティング。

アンナ・ミッツェル




というわけで急遽、行き先を変更して向かったのは、“高円寺”という地名の元となった曹洞宗の寺院「宿鳳山高円寺」。



宿鳳山高円寺



宿鳳山高円寺には逸話があって、第三代将軍徳川家光が鷹狩り中の雨宿りで立ち寄った際に、住職が家光を特別扱いせずに一般の雨宿り客としてさりげなくもてなしたことを気に入られ、名を上げたという。


なお、秋には境内参道が見事に紅葉し、特に情緒ある景観を見せてくれるらしい。






―――モミジかぁ。とっても綺麗なんだろうね。

アンナ・ミッツェル




徳川家ゆかりの静謐な庭を、ウクライナ美女と往く黄昏時は、とかく空想的で艶やかに感じられた。



アンナ・ミッツェル






その後は、オールアップ前にも関わらず、場所柄一杯ひっかけてしまえぃということで、高円寺駅の西側、阿佐ヶ谷方面のガード下にある「高円寺ストリート」を散策。



古本屋、レコード屋、アジア雑貨店、大衆酒場などが混在する、いかにも高円寺らしい楽しげな空間である。


アンナ・ミッツェル

賑々しい高円寺ストリート



落ち着いたのは、高円寺ストリートの中央辺りにある串焼き屋「四文屋」。

センマイやハチノスをホッピーやサワーで流し込みながら、杯を重ねていく。





「日本で暮らしてて、ホームシックになったりしない?」

―――どうだろうね。昔からウクライナにはしょっちゅう帰ってたし、若い頃なんて、あそこ行きたい、これがしたいっていう気持ちばっかりで、ホームシックって感じはなかったかな。でも、歳を重ねる内にちょっと寂しいって思うようにはなってきたかも。

「分かる。親のこととか心配になってくるよね」

―――そう。ウクライナのパパやママのことが心配で、日本に引っ越しておいでよって誘うんだけど、やっぱり母国がいいって。お世話はいらないから生まれ育った国で生きたいって言うのね。でも、世話はしたいから、ゆくゆくは私がウクライナと日本を行ったり来たりすることになるんだろうね。

「このまま日本に永住する予定なんだよね」

―――うん、家族いるしね。

「アンナみたいに、旅で人生が劇的に変わったっていう人は珍しいよ。日本で恋に落ちて、日本人になったわけだよね」

―――そうだね。誰もこんなことになるなんて考えてなかったんじゃないかな(笑)短大卒業して、就職する前に、ちょっと旅してみようと思って来ただけだったのに。

「いや、スゴい情熱だと思う。両親に強く引き止められたりしなかった?当時、アジアにひとりで行くような人なんていなかったでしょ」

―――全然いなかった。でも、ママが心配しながらも応援してくれて。アンナなら大丈夫だから好きに生きなさいって背中を押してくれたの。パパも笑顔で送り出してくれたけど、きっと複雑だったんだろうなって。ママが説得してくれたんだと思う。

「カッコいい母親だよね」

―――結婚するときもダメとは言わなかったの。応援するって。

「信用してるんだろうね。にしても、勇気あるよ、知らない国に飛び込むって」

―――ね。若さだったのかな。でも、自信はあったね。なんとかなるって。まあ、それは今も変わらないけど。


アンナ・ミッツェル




アンナはそう言って、赤ちょうちんの下、ふわりと微笑んだ。



黒船ガールのしなやかな強さが、またひとつ煌いた。







◇写真:鈴木清美
◇構成:前田レイ




ANNA MITZEL

アンナ・ミッツェル

ウクライナ出身。37歳。2000年に来日し、モデルとして数々の媒体やカタログに起用される。直近は「マクドナルド」のCMで“問いつめる女”を好演。


アンナ・ミッツェル

McDonald’sより







NEXT/STORY