2017.06.02

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.5 (3/4)




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13:20 │ 神代植物公園/ファジーな憧憬

バスストップ


/JINDAI-SHOKUBUTSU-KÔEN




深大寺を後にして、バスで北上し、停留所「神代植物公園」で降車。

神代植物公園は、都内唯一の都立植物公園であり、園内には数千種類、およそ10万株の植物が植えられている。





「そういえばさっき、七福神を見て懐かしそうにしてたけど、そもそも日本に興味を持ったのって何がきっかけ?」


マリナ



―――最初は、たまごっちかな。

「え、ベラルーシに、たまごっちがあったの?」

―――ありましたよ。小学校1,2年のときに、よく遊んでました。たまごっちとかポケモンとか、あといろんな電化製品とか、日本のモノって今思うと意外と身近にあったんですよね。中学生くらいになると、歴史の授業で江戸時代のお城とか、戦国時代の武士のことを知って面白いなって。特に、本で見たお城がスゴく綺麗で、模写とかしてました。

「ヨーロッパのお城とはまったくの別物だから、印象に残ったんだろうね」

―――高校生の頃は日本のアニメが流行ってたんですけど、吹き替えがダサくて気に入らなくて(笑)。字幕なしで観たいと思うようになって、日本語の勉強を始めたんです。


マリナ



「じゃあ、その頃すでに日本に対する憧れみたいな気持ちはあったんだ」

―――あった。でも、まだネットも一般的じゃない時代だったから、日本がどういう国なのかは、正直なところ分からなかった。

「漠然としたやつね。かつての西洋人が極東に惹かれたような」

―――そう。ベラルーシの若者は、やっぱりヨーロッパとかアメリカに行きたがることが多いんだけど、私は周りと一緒はイヤっていうのもあって、日本に行きたいって思った。どんなところなのかも、よく分からなかったけど。





日本で暮らす外国人は基本的に、個性的な人が多い。
知性や行動力も、並外れている。
少なくとも、これまでの黒船ガールたち含め、出会った外国人はもれなくそうだった。


その理由の一端が、マリナの発言からも、ひょこっと顔を覗かせている気がした。


マリナ



「ちなみに、好きなアニメは何だったの?」

―――『デスノート』が好きでした。それと、大学に入って日本語の先生に勧められた『蟲師』。ジブリ作品もそうだけど、人間が存在する前からある自然の力みたいなものに惹かれるんです。それから実際に日本で暮らすようになって、長野に行ったときなんか、当時アニメの世界で見た自然が本当にあるんだなぁって思った。日本ってハッキリした四季があるから、自然が豊かで緑も鮮やか。ベラルーシも自然は豊かだけど、ドライな気候だからか、色合いがもっと地味な感じなの。

「湿度も高いし、緑が生き生きしてると」


マリナ

三鷹にあるカラフルな建物



―――そうかもしれない。だけど、東京に住んでみて、冬がなくてビックリした。秋がずいぶん長いって思ってたら、いつの間にか春になってて。あれ、冬はいつ来た?みたいな感じで(笑)。雪はほとんど降らないし、そこまで寒くないし、冬に気づかなかったんですよね。






雪が降らない冬など、冬にあらず。

時折こういう感覚の違いからも、世界の広さを思い知らされるのである。



14:00 │ 下連雀/太宰治ゆかりの地

バスストップ


/SHIMORENJYAKU



マリナ



バス停を10ヶ所以上は通り過ぎ、下連雀で下車。


一見ごく普通の住宅街なのだが、降り立ったのにはもちろん訳がある。
三鷹のこの辺り一帯は、太宰治が暮らしていたため、ゆかりの地が点在しているのだ。




「太宰治って知ってる?ロシアでいえば、ドストエフスキーぐらい有名な作家なんだけど」

―――知らない、ですね。

「そっか。ドストエフスキーとかトルストイなんかは、ベラルーシの人も読んでるの?」

―――読みますね。高校の必読図書のリストに入ってるくらいだから。まあ、読書が嫌いな人もいるけど、私はドストエフスキー、トルストイ、チェーホフあたりを読み始めると、面白すぎて止まらなくなっちゃう。素晴らしい小説だから、もっと多くの人に読んでほしい。




ふと思った。
日本では、どうなのだろうか。

彼女のような若い世代が、古典で、しかも難解な部類に入る小説について目を輝かせて語っているのを見るにつけ、文化度や教養のレベルをなんとなく対比してしまうのであった。





「この近くに禅林寺っていうお寺があるんだけど、そこには太宰治のお墓があるんだよね。森鴎外っていう作家のお墓も。そういう歴史上の人物とか著名人の墓参りを趣味にする人を、最近では“墓マイラー”とかって呼んだりするんだけど、せっかくだし、太宰のお墓参りをしてみようと思ってさ」

―――へぇ、そんなのがあるんですね。でも、好きな作家のお墓参りなら、ちょっとやってみたいかも。



マリナ

太宰治のお墓に手を合わせる文学少女






それから、半歩先を歩くマリナの背中を見つめていると、思わぬ発見が。

なぜもっと早く気が付かなかった。






「そのトートのイラストって芥川龍之介?」

芥川龍之介のイラスト入りトート



―――そうです!芥川龍之介は好きで結構読んでますよ。






太宰ではなく、芥川派だったのか。


まあ、いずれにせよ、麗しいことに変わりはない。






◇写真:鈴木清美
◇構成:石井ミノル





MARYNA ARABEI

マリナ・アラベイ

ベラルーシ出身。23歳。2014年に来日。長身を活かしたスタイルで、数多くの広告やカタログにて起用され、テレビ番組にも出演。日本に最初に来たのは、東日本大震災後の福島原発の視察団の一員として。ベラルーシはチェルノブイリ原発事故の影響を受ける国で、そこから日本に興味を持つようになった。






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