2017.05.18

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.5 (2/4)




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10:30 │ 深大寺入口/新緑の輝く古刹

バスストップ


/JINDAIJI-IRIGUCHI




御塔坂から鶴川街道を通って、バス停「深大寺入口」へ。



調布駅を離れるにつれ緑が多くなっていたが、深大寺の近くまで来ると、TOKYOとは思えないほど緩やかに時間が流れる。

マリナも同じように感じているのか、のんびり歩を進めながら、時折深呼吸をしている。


マリナ




「マリナが生まれ育ったのは、自然豊かなところ?」

―――どちらかと言えば、そうですね。でも、ベラルーシ自体はチェルノブイリの原発事故が起きた場所に近くて(※ベラルーシの国境から約16km離れた地点で発生)、かなりの被害を受けたんです。それで、広範囲にわたって立ち入り禁止区域になってしまったんですが、今ではそのエリアにいろんな種類の動物が生息していて、動物たちの楽園になってるんですよ。

「放射能汚染地域になってしまったけど、人間がいなくなったことで、皮肉にも動物たちがのびのび暮らせるようになった、みたいなことだよね」

―――そうなんです。でも、東京にこんなステキなところがあるなんて、知りませんでしたね。



深大寺への道すがら




「今から深大寺っていうところに行こうとしてるんだけど、日本のお寺とか神社は好き?」

―――好きなんですけど、違いがよく分からないというか、どれも同じに見えてしまいますね。外国人は皆京都とか好きだけど、観光客のための施設が多すぎて、私にはちょっと嘘っぽく見えてしまったりもする。もちろんステキな場所もたくさんあるんだけど。

「正直な意見だね」

―――観光客が多いところよりも、こういうのんびりした雰囲気の方が私は好き。



マリナ

ラムネの瓶を見て「どうしてこんな不思議な形をしてるの?」とマリナ。仕組みを教えると、興味深そうに飲んでいた




深大寺は天台宗別格本山の寺院で、浮岳山昌楽院(ふがくざんしょうらくいん)深大寺という正式名称を持つ。

山号である“浮岳山”は、深大寺をはるか遠くから望むと山が浮かんでいるように見えるという言い伝えに起因し、創建は奈良時代の天平5年<西暦733年>とされていて、都内では浅草寺に次ぐ歴史の長さを誇る。


そんな古刹ゆえに、週末こそ多くの人で賑わうのだが、平日は人もまばらで、これだけ広大な敷地を悠々と散策できるのは贅沢なことこの上ない。






七福神の像を見つけ、マリナがしみじみとノスタルジックに言った。


―――この小さい人形、子どものときにサンクトペテルブルクで買いましたね。アニメなんかもそうだけど、気づかないところで、昔から日本に触れてたんです。


深大寺にて




そうかと思えば、彼女は境内で目にした物珍しいものを写真に収めたり、風に揺れる風鈴の音に耳をすます。



―――ここ、最高だなぁ。



そんな風につぶやくマリナを見て、本人が言うような“神社仏閣がどれも同じに見える”という結果よりも、違いを分かろうとする過程と審美眼にこそ真価があるのかもしれないと、ひそかに感じるのだった。


マリナ

自分の悪い部分や弱い部分を撫でるとよくなると言われる“おびんずる様”。「私はお腹かな」




さて、深大寺で食べるべきものといえば、そばである。


一説によれば江戸時代、周辺の土地が米作りに適していなかったために、そばを生産するようになり、寺にそば粉を納め、そこでそばを打って客をもてなしたのが始まりだという。

そして現在は、残念ながら地元産のそば粉を使うお店はないようだが、深大寺の門前を中心に約20店舗のそば屋が軒を連ねている。






「そばは、好き?」

深大寺そば



まあ、ここで嫌いと言われても他に選択肢はなかったのだが、幸運にも大好きとのこと。

というわけで、昼食。





そばが茹であがるのを待つ間、天然水で仕込んでいるという深大寺ビールと、コンニャクのみそおでんをつまむ。





「ところで、ベラルーシ料理って、どんなものがあるの?」

―――基本的にはロシア料理と似てるんですが、じゃがいも料理が多いですね。代表的なのは、ドラニキっていうじゃがいものパンケーキ。すりおとしたじゃがいもを、刻んだ玉ねぎや卵と混ぜて焼いて、スメタナっていうサワークリームを添えて食べます。


マリナ



「なんか、食欲のそそり方がスゴい料理だね」




美味しい話をしていると、そばがやってきた。






―――そばは好きだけど、音を立ててすするのは今でも苦手。



そんなことを言いながらも、下手なりにトライするあたりが可憐である。



―――なんか、日本の料理って独特なものが多いですよね。

「どんな部分にそれ感じる?」

―――喉越しが味を決める大事な要素になってる、とか。

「通なこと言うね」

―――NHKワールドで築地の食材を扱う番組があって、何度かレポーターをしたことがあるんですけど、そこでシェフや漁師に話を聞いたんです。

「それは貴重な経験だよ。日本人がやりたいと思ってもなかなかできることじゃないからね」


マリナ



―――日本料理は五感を使って食べるものですし、楽しみ方も他とはレベルが違うような気がしますよ。美術館に行ってアートを楽しむのと似たような魅力があると思うんです。




その小粋な発言に唸り、そばをすすり、また唸る。

なんとも洒落た昼なのである。





◇写真:鈴木清美
◇構成:石井ミノル




MARYNA ARABEI

マリナ・アラベイ

ベラルーシ出身。23歳。2014年に来日。長身を活かしたスタイルで、数多くの広告やカタログにて起用され、テレビ番組にも出演。日本に最初に来たのは、東日本大震災後の福島原発の視察団の一員として。ベラルーシはチェルノブイリ原発事故の影響を受ける国で、そこから日本に興味を持つようになった。






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