2017.05.11

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.5 (1/4)

黒船ガールとバスさんぽ



日々変わり続ける大都市・東京。



知っているつもりでも発見の絶えないこの街は、

異国から来た彼女にどんな風に映るのだろう。



路線バスの発着地から終着地まで、

気ままにめぐる東京さんぽ。




吉06(調布駅-吉祥寺駅)小田急バス



この日、新宿駅から京王線を下って、調布駅に降り立った。

朝のせわしい時間帯ではあるものの、23区内の都心部とは異なる悠々とした時間が流れている。



調布では、その昔、多摩川の清流を利用して布が作られ、古代の税のひとつである租庸調(そようちょう)の調として朝廷に納められていたという。

多摩川沿いにある田園調布と同様、“調布”という地名はそんな歴史に由来しているらしい。


9:00 │ 調布駅北口/妖怪たちのお膝元

バスストップ


/CHÔFU-EKI-KITAGUCHI



マリナ・アラベイ




爽やかな日差しを浴びて、調布駅北口のロータリーに現れた今回の黒船ガール、マリナ・アラベイはベラルーシ出身。

デニムオンデニムに金縁の眼鏡がアトラクティブなその出で立ちは、もはや80年代風ファッションに身を包んだ歩くマネキン。






「よろしくね。調布は来たことある?」

―――たぶん一度もないですね。

「せっかくだからバス乗る前に、駅周辺をちょっと歩いてみよう」





我々は調布駅北口から徒歩2,3分のところにある、まだ人もまばらな天神通り商店街へと向かった。


マリナ



―――あ、鬼太郎!


商店街の入り口にあったオブジェを見つけ、マリナが嬉しそうに一言。




「『ゲゲゲの鬼太郎』知ってるんだね」

―――知ってますよ。日本でアニメをたまたま観てたら結構面白くて。妖怪ってなんだか可愛いですよね。




『ゲゲゲの鬼太郎』の作者である水木しげる氏は、長年調布に暮らしていたため、この街にはゆかりのスポットが多数点在している。
天神通り商店街もそのひとつで、商店街の両脇には、鬼太郎や目玉のおやじ、ねずみ男、ねこ娘など人気キャラクターのオブジェが並ぶ。

ねこ娘



―――私、ベラルーシの大学で、東洋学を専攻してたんです。そのとき世界各地に伝わる昔話や民話についてレポートを書いたんですが、国を問わず物語の展開に共通のパターンがあるんですよね。例えば、主人公がアドベンチャーを通して成長したり、何かしらのツールを使って困難を乗り越えたり。

「その視点いいね。そのとき着目した日本の昔話は?」

―――『桃太郎』とか『鶴の恩返し』です。なので、日本の妖怪にちょっと興味あるんですよ。




偶然とはいえ、スタート地点を日本を代表する妖怪アニメの聖地にしたことで、つかみはバッチリだったようだ。



マリナは、おとなしい雰囲気ながらも、知的好奇心が旺盛な気配。

この先の行程も明るくなってくる。


9:50 │ 御塔坂/花散る川のほとり

バスストップ


/OTÔZAKA



マリナ



調布駅北口のロータリーに戻り、バスに乗車。
ビジネスや通学で利用する人が少ないせいか、車内は適度に空いている。




そのうち読書を始めたマリナに、おもむろに話しかけた。



「その本は何語で書かれてるの?」

―――英語です。

「ベラルーシの公用語って何語?」

―――ロシア語とベラルーシ語ですね。学校でもこのふたつは必ず勉強します。

「そうなんだ。ロシア語とベラルーシ語はどう使い分けてるの?」

―――本に関しては、ロシア語とベラルーシ語の両方ありますが、テレビなどのメディアでは、たいていロシア語が使われてますね。私の家族はロシア語で会話しますが、ベラルーシ語で会話する家族もあって、いろいろです。地方に行けば、いわゆる方言みたいなのもありますし。




公用語が複数存在する感覚は、日本人にはなかなか理解しにくい。

いや、単一言語で単一民族国家である日本の方が、世界的に見ればむしろマイナーだとも言える。


マリナ

シートに座ってペーパーバックを広げるマリナ。読書をする姿が画になりすぎている



そうこうしているうちに、バス停「御塔坂」。



近くを流れる、のどかな野川のほとりをそぞろ歩きながら、ふと思う。
ベラルーシの人々が何語で話をしているか以外にも、知らないことが多すぎる。

というわけで、さらにトーク、もっとトーク。




「ベラルーシって、どんな国?」

―――ベラルーシは、とてもキレイな国です。


マリナ



どことなく観光ガイドみたいに、お茶目な口調で話し始めるマリナ。



―――面積は日本の半分ほど。でも、人口は1,000万もありません。

「へぇ、東京都よりも少ないぐらいの人が、日本の半分ぐらいの広さの土地で暮らしてるんだ」

―――そうですね。だから自然も美しくて、ヨーロッパ最後の原生林が残ってたり、絶滅したバイソンが生息してたりするんです。

「ベラルーシで盛んなスポーツは?」

―――アイスホッケーかな。あとは、新体操やバレエも盛んですし、バイアスロンではオリンピックで何度もメダルをとってる選手がいます。


野川

桜吹雪が舞う御塔坂



―――そういえば、昨日母からメールが来たんですが、ベラルーシでは雪が降ったみたいですよ。この時期に雪が降るなんて、珍しいことですけど。






ロシアとポーランドに挟まれた東欧の国、ベラルーシ。

聞けば聞くほど、日本とは縁遠いイメージが頭をもたげそうだが、これからじっくり距離を詰めていくことにしよう。





◇写真:鈴木清美
◇構成:石井ミノル




MARYNA ARABEI

マリナ・アラベイ

ベラルーシ出身。23歳。2014年に来日。長身を活かしたスタイルで、数多くの広告やカタログにて起用され、テレビ番組にも出演。日本に最初に来たのは、東日本大震災後の福島原発の視察団の一員として。ベラルーシはチェルノブイリ原発事故の影響を受ける国で、そこから日本に興味を持つようになった。






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