2017.04.14

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.4 (4/4)




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16:10 │ 須田町/戦前の街並みを残す異空間

バスストップ


/SUDACHÔ




秋葉原がほど近い、バス停「須田町」に降り立った。



午前中は晴れていたのに、午後に入って次第に雲が多くなり、風も強くなってきた。
歩きながら何度も強風に煽られてしまう。


ヤンニ

カツサンドで有名な万世橋。春何番かの風がヤンニの長い髪を揺らす



「まあ、春一番にしてはちょっと遅いかな」

―――あ、今、ハルイチバンって言った?それって、どういう意味なの?



聞き逃さないぞと言わんばかりに、思いがけないところでヤンニが食いついてくる。
たしかに、字面をそのまま追ってみても、よく分からない表現かもしれない。




「春のはじめに吹く、強い南風のことだね。それを日本人は春が来る合図みたいに捉えてる」


万世橋から見た神田川の流れ

万世橋から見た神田川の流れ



―――そういうことなんだ。面白いね。いや、こないだ外で撮影してたときも風が強くて、スタッフが春一番って言ってるのを何度も耳にしたから、ずっと気になってたの。やっと意味が分かってスッキリしたよ。じゃあ、今吹いてる風は、春二番ってこと?何番まであるの?

「どうなんだろうね、こっちが聞きたいくらいだね、それは(笑)」



その場で調べてみると、“春一番”は気象庁で発表している正式なものらしいが、春二番、春三番は、春一番から派生した表現で、明確な定義はなさそうだった。
「春三番、春四番と続いて、『春本番』となる」という解説を読み、巧いこと言うなとは思ったけれども、彼女にその小気味よさを的確に説明できる自信はなかったので、心の中に留めておいた。



ともあれ、外国人と話していると、気付かされるものである。

分かっているつもりが、実は分かっていないようなことが、やまほどあるのだ、と。



ヤンニ





「ちょっとこの道、入ってみよっか」




神田須田町1丁目には、近代的なビルに囲まれながら、木造の料亭などがひっそりと並ぶ一角がある。




―――え、スゴい!昔の日本ってこんな感じだったのかな。

「ここは、戦前の建物が奇跡的に残ってる場所なんだよ」


いせ源と竹むら

あんこう料理の「いせ源」、奥にあるのは甘味処の「竹むら」



こんな店で粋に食事を楽しみ、呑み、喋り、予期せぬ方向から誰に質問されても、首尾よく解説できるような大人の流儀を身に付けられたら。


タイムスリップしたかのような感覚に襲われながら、そんなことを思うのだった。



16:50 │ 日本橋三越/日本の始まりの場所

バスストップ


/NIHONBASHI-MITSUKOSHI




バス停「日本橋三越」で降り、日本橋へ。


ヤンニ

日本橋三越のシンボルであるライオンを見つめる、北欧のライオンガール



「ここが日本の道路網の始まりとされる場所で、こっから日本各地に道路が伸びてる」

―――日本橋っていう名前も、たしかに一番って感じがするよね。




春一番の意味を知ったことが、よほど嬉しかったのか、ヤンニはずっと一番を引きずっているようにも映る。

そんなこんなで、とうとう雨が降ってきたので、カフェに駆け込んだ。




「スウェーデンって福祉国家で、休暇もいっぱい取れたり、生活が厚めに保障されてたりして、羨ましい部分もあるんだけど、それでも日本で暮らしたい理由って何?」

―――う~ん、若い頃は皆外に出たがるけど、ある程度年とったら、スウェーデンに戻りたがる人は多いよ。

「じゃあ、ヤンニもゆくゆくはそうするつもり?」

―――私は人生で仕事が一番大切で、自分の夢に向かってやりたいことをやってないと落ち込んでしまうタイプなのね。もちろん、スウェーデンにいたら何の問題もなく、超ラクな生活ができるよ。日本では役所から税金についてのお知らせが来ただけでも、さっぱり意味が分からないし、毎日問題にぶつかってばかりだけど、それでも、やっぱりこっちの暮らしの方が今は好き。スウェーデンでは、自分が頑張らなくても、どうにでもなっちゃうから。安定した生活って、まあ、つまらないと思うんだよね。

「カッコいいこと言うよね」


日本橋




―――苦労して頑張って、それで上手くいったら、ラクに生きるよりも断然幸せじゃない?私はそういう生活を送りたいかな。まあ、家族に会えないのは寂しいけど、今は手紙しかなかった時代と違って、顔見てリアルタイムに会話もできるし、家族と呼べるほど仲のいい友だちも、日本でたくさんできたから。

「今後、仕事でやってみたいのは、どんなこと?」

―――いろいろあるんだけど、日本のテレビ番組で司会をやりたい。あと、今いろんな番組でレポーターの仕事をさせてもらってるんだけど、旅行は好きだから、旅番組のレポーターはやりたいな。

「そっか、テレビの仕事はどんなところに魅力を感じる?」

―――取材でいろんなところ行って、普段会えないような人たちと出会って話せることかな。外国人の私が日本にいて、普通に暮らしてたら、絶対にできない経験をさせてもらえるから。

「得意なアクションを仕事にしたいとも思う?」

―――うん、アクション映画に出るのは一番の夢。『キル・ビル』みたいなことやれたら最高だね。

「ガチだね(笑)」

―――仕事以外では、お兄さんが日本に来たら案内してあげること。10年前、お兄さんに誘われて初めて日本に来て、誘われた私は今こうして住んでるのに、お兄さんはそれ以来一度も来てないんだよね。だから、お兄さんに、あのとき見ることのできなかった日本を見せてあげたいな。観光で来ただけでは分からない日本をね。

「近いうちに叶いそう?」

―――そうね、たぶん来年には叶う。


ヤンニ




決して安定した暮らしを望まず、異国の地で冒険を続ける彼女は、どんな日本を伝えるだろうか。

その快活なバイタリティに期待しよう。





ふと、雲の隙間から、かすかに淡い夕陽が射し込んだ。





 17:45
 日本橋にて




◇写真:鈴木清美
◇構成:石井ミノル







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