2017.06.30

いにしえの魂が眠る埼玉の秘境「吉見百穴」は、遺跡と心霊スポットのワラジスト

国指定史跡:エスプリ:とこしえの孔


突然だが、古墳をご存じだろうか。

一応義務教育の範疇なので聞くまでもないとは思うが、平たく言うと、“昔のえら~い人のお墓”である。
まあ、絶対的にえら~い人のために、相対的にえらくな~い人たちが、精魂を込めて創ったアートみたいなものだ。
なお、場を楽しくしようとしているだけで、表現に悪意はないので悪しからず。


そして、都内から車で1時間半ほどの距離にある埼玉県比企郡に、「吉見百穴(よしみ ひゃくあな)」という古墳がある。
正確には古墳ではなく、横穴墓で、言わば死者の集合住宅のようなものらしい。


というわけで今回は、この吉見百穴が旅の舞台。
ちなみに、史跡として名高い吉見百穴には、もうひとつの顔がある。
お墓ということから予想がつくが、心霊的なアレだ。

ちょいと涼みに行ってみようじゃないか。


Hiho Hiho to ヨシミヒャクアナ


吉見百穴までは新宿から車で約1時間半。

練馬区ICまで都道を進み、関越自動車道に入る。
降りるのは東松山ICで、そこまで約40km。

都内を抜けて埼玉県新座市を通過し、20分ほどひた走ると東松山ICに到着。
そこからは国道254号線を15分ほど走らせる。
ICを出てすぐ道路沿いに大きな飲食店が立ち並んでいるので、さほど田舎という印象は受けないが、そこを抜けると一気に視界が開け、一面の田んぼ風景が飛び込んでくる。
いよいよ秘境にやってきたという感じの景観。

からの、そう思ったのも束の間、国道66号線に入ったあたりからは雰囲気が賑やかになり、そこを抜けると住宅地に入っていく。
秘境感激減のフッツーの街並みである。



こんなところに吉見百穴があるのかぁい。
穴がめっちゃあるのかぁい。

そんなノリで国道249号線に入る。



お店や家が居並ぶ様子は相変わらずだが、その風景に不釣り合いな山が遠くにそびえ立っている。

その山を目印に、悠然と流れる市野川を渡り、さらに進む。




すると、吉見百穴の看板を発見。

吉見百穴



それから、土地を持て余しているのか、200台分を備えた過剰供給すぎる無料駐車スペースに車を停めた。

あの、土地ちょっと東京に譲ってくれぃ。




そんでもって、お目当ての穴へと直行してもいいのだが、駐車場までの道のりを少し戻ったところにも軽い名所があるので、いきなり寄り道。


切り立った崖に人工的に穴を掘った「岩窟ホテル」だ。

岩窟ホテル


岩窟ホテルは、明治から大正にかけて、農夫の高橋峰吉によってアウトサイダーアートとして掘られたらしい。
アウトサイダーアートというのは、専門技術の訓練を受けなかった人が創ったアートの中で、世間的に芸術と認められているものを指す。
つまり、語弊を気にせず言えば、建築のケの字も知らない素人が創った、ということである。

実際、高橋峰吉もホテルを想定していたわけではなく、『岩窟掘ってる』という発言を聞き間違えられて、『岩窟ホテル』と呼ばれるようになったのだとか。

一時は観光地として賑わったこともあったが、その後崩落の危険があるということで閉鎖。
仮にホテルとして営業していれば、○ヶ月先まで予約が一杯だべ!笑いが止まらんべ!みたいな、どこぞの繁盛店ばりの人気を博していたかもしれない。
こういう空気感とストーリー性、外国人観光客とか、めちゃめちゃ好きそうでしょ。





てなことで、駐車場にとんぼ返りし、本命の吉見百穴へ。


吉見百穴



あっさり目に飛び込んでくる、吉見百穴の全貌。


そびえ立った岩山だけでも十分な迫力があるのに、そこに無数の穴が開いているから面白い。

一見同じ穴に見えるが、よく見れば大小様々で、形も異なっている。
それはお墓というよりも、まさに住居と言った方が似つかわしく、今にも穴から原住民族が飛び出してきそうな気配すらある。


実際、研究が進められた当初は、研究者の坪井正五郎により、“アイヌ伝承に登場する小人コロボックルは日本の先住民族であり、横穴はコロボックルの住居である”という説が唱えられた。
その後、大正時代に研究が進み、死者を埋葬する横穴墓であったということが明らかにされたが、それまでは坪井説を覆す証拠がなかったために、コロボックル住居説が幅を利かせていた。



なんだかんだで、言ったもん勝ち感、スゴいですな。




なお、吉見百穴のくせに、実際の穴の数は219らしい。



わっはっは。
おっほっほ。


おい、別に吉見二百穴でよくね?
ストレートに吉見二百十九穴でも、音と歯切れが悪すぎて、逆に頭に残りやすくてよくね?



ただまあ、世の中、千手観音やら、某48系アイドルやら、名前で謳っている数よりも実際は少ないというのがザラなのに、吉見百穴は反対だから男前よね。
吉見千穴とかにしなかったのは、命名者の謙虚さの表れなのかね。

吉見百穴



そうやって他愛ないことを考えながらも、近くで横穴を見てみると、穴の大きさは極端なほどに違っていた。
コロボックル人も涙目レベルの小さいものもあった。





ちなみに、穴の中の様子はこんな感じ。

吉見百穴の中



入口は1mほどしかないが、空間はそこそこ広い。
写真右の台座は、布団を敷いて寝られるぐらいのスペースがある。
棺桶を置くための場所なので、大人ひとりが横になれる広さがあるのは当たり前なのだが。

そして、よく見てみると、横穴内には文字のようなものが無数に彫られており、これらが何を意味するかは未だ解明されていない。
解読不能な文字の中に、朝倉や池林といった、明らかに人名と思しき彫刻が紛れていた。





また、冒頭で述べたように、吉見百穴は心霊スポットとしても有名だが、横穴の下に掘られた洞窟がそれらしい。
その名も「地下軍需工場跡地」。

地下軍需工場跡地



入口付近は冷たい空気が立ち込めていて、余裕で不気味。



この洞窟は、第2次世界大戦末期に地下軍需工場用に掘られたもので、掘削は、約3,000人に及ぶ朝鮮人労働者によって昼夜問わずダイナマイトを使って行われたが、多くの人々が工事中に亡くなったとされ、それから心霊スポットとして名が広まったのだ。

地下軍需工場跡地



内部は、ザ・突貫といった趣き。



照明はあるので思ったほどの恐怖は感じなかったが、霊感のある人は途中から進めなくなったり、体調がおかしくなったりするほど、強い場所らしい。

地下軍需工場跡地



筆者は見事なまでの心霊童貞っぷりを発揮し、元気ハツラツだった。


あと、吉見百穴は関東平野では非常に貴重なヒカリゴケの自生地でもあるのだが、時期のせいか、笑っちゃうくらい生えていなかった。


眼前に広がる穴々と共にメシ


吉見百穴は30分もあれば見終わる道程だが、当方、身体が入りそうなサイズの穴を見つけてガシガシ突入したりしていたので、余分に1時間ほど浪費。



ものすごい疲れたので敷地内にある「百穴発掘の家」でランチ。

百穴発掘の家



この、予想を裏切らない外観。
こういう場所の食事処っぽさの安定感たるや。
お婆ちゃんが切り盛りしてそうな、ほっこりする系のやつ。




屋内には吉見百穴の出土品が展示されていたり、お土産も売っていた。
外にも席があり、吉見百穴を眺めながら食事を楽しめる。



メニューにはラーメン、うどん、そばなど観光地の定番料理が書いてあって、なんとなく、ざるそばをチョイス。

ざるそば


はい、食レポね。

シンプルながら、しっかりコシのある麺だぁ。
昔ながらの正統派ざるそばで、一足早い夏の訪れを感じられるぅ。
もう風鈴を鳴らしておくれぇ。
あぁ僕の風鈴はどんな音色なんだぁい。
そして君の風鈴はどんな形をしてるんだぁい。




みたいな感じで、食べ盛りで育ち盛りの野郎には少し物足りないボリュームだったので、追加でお店自慢の、みそおでんを注文。

みそおでん



はい、食レポね。

割と濃厚なみそが、おでんとセッションして、口当たり良好だぁ。
そばの合間に食べると、すんごい心地良いアクセントになるだろうなぁ。
あぁ僕のアクセントはどんな感じだぁい。
そして君のアクセントの調子はどうだぁい。




みたいな感じで、非日常的な吉見百穴と、どうしようもなく日常的な食事とのハーモニーで、なんとも不可思議なパラレル情緒を味わうのであった。


あとがき


日本有数の史跡、吉見百穴。
遺跡的なものに興味はなくとも、その見た目のインパクトだけで十分楽しめるあたりがポイント高し。

なお余談だが、日本経済新聞が2017年1月に行った、“観光クイズ どこの名所でしょう?”という調査では、吉見百穴の正答率は40.9%で栄えある第1位に輝き、2位の吉野ヶ里に10%以上の差をつけて、ぶっちぎりのトップだった。
一方で、半分以上は正解できなかったということは、吉見百穴は国指定の高名な史跡であると同時に、ゴリゴリの穴場スポットだとも言える。
実際、平日の昼間ということもあってか、ほとんど人がおらず、じっくり舐め回すことができた。

また、今回は車だったが、東武東上線の東松山駅からも、駅から出ている鴻巣駅西口行きのバスを使えばわずか5分ほどで到着するし、歩いても20分ほどなので、徒歩でも全然OK。
さらに、小江戸と呼ばれる埼玉の観光地、川越がほど近いのも嬉しいところ。



とまあ、どんだけ張り切っても、ピクチャーとテキストだけでは、吉見百穴の真の魅力はほんの一部しか伝わらない。


百聞は百穴に如かずである。


うむ。
我ながら、意味不明である。
やはり最後は、スベり終わりが性に合う。




◇text:日下部貴士/A4studio



「吉見百穴」INFO


■住所
埼玉県比企郡吉見町北吉見327

■電話番号
049-354-4541

■営業時間
8時30分~17時00分

■定休日
無休

■料金
中学生以上 300円
小学生 200円
小学生未満 無料







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