2016.08.22

別にそこまで面白くはない、大学生時代に男に300万円貢いだ女の愛の戯言。

ART IN NONSENSE

 
 
 アタシは、ごく普通の女子大生だった。他の女子学生と同じように、自由と希望溢れるキャンパスライフを謳歌しようと胸を躍らせ、明るい未来を思い描いていた。でも、ひょんなことから、先の人生は思いも寄らぬ方向に逸れていくことになる。


 これはアタシが男にハマり、借金を経験し、起業して快活さを取り戻すまでの日々を綴った物語。


華の女子大生に男がいないのは寒い


リア充という単語はしばしば耳にするが、女子大生のカーストは相当に面倒臭い。まだ思春期かよって思うほどに。
とりあえず見た目が綺麗でお洒落なら上位層。これは思春期とほぼ変わりなし。地味な女子なら、勢いのあるサークルに入ったり、画になるアルバイトをしたりしながら、おもしろ可笑しく場を盛り上げるとかした方が勝ちやすい。ここも思春期とほぼ変わりなし。あとは、ノートを貸してみたり、飲みの席ではお淑やかにしてみたり、知的で八方美人な振る舞いを心がければ、カースト上位にランクインしている風にはなれる。

ところが、そんな面倒臭いアレやコレやを一気に凌駕する、神器がある。
それが、男。
ちなみにアタシは、高校時代は真面目な地味メガネちゃんで、男ウンヌンとは縁遠い生活を送っていたのだから、総じて、難儀な環境だった。

真意は不明だが、“彼氏”がいるだけで女の価値は鰻登りだ。マジカルすぎる。
冷静に振り返ると、女子学生に特定の男がいようがいまいがどっちゃでもいいと心底思うが、当事者たちは何故か、恋人の有無が大きなステータスになってしまう。ただまあ、これは恋愛に限らず、世の中ではよくある話。井の中の蛙的、極狭発想に泣けてくる。
ともすれば、孤独が嫌なのか、そもそも誰かに必要とされる存在だというアピールになるのか何なのか、全く計り知れないが、それが人間というやつなのだ。


そして、そんな空気に呑まれる形で、彼氏が欲しいと言ったところで、当時のアタシは合コンのような晴れやかな場に参加するタイプではなかった。
でも、幸薄めのアタシに言い寄ってきた奇特な男がいた。
彼は普通の大学生で、スペック的には、そこそこの有名私大の学生で、顔は醤油顔でまあまあ、背丈もまあまあ。
それでも、過去は地味メガネちゃんだったアタシにしてみれば結構イケてると色めき立ち、お付き合いを始めたが、まあそんなに美味しくならない。彼は、半ば予定調和的なヒモ男で、これが後の借金生活の契機である。

金で繋がる魔力


彼ってば、アタシのこと大好きなのであった。ほぼ真面目一本気を通してきたアタシからすれば綺麗なバラ色。
ところが、彼には他に好きなものがあった。
パチスロである。
もはやコテコテすぎるのが若干気になるが、事実である。

その後は、あらかたご想像通りのご展開。
続きを読まずとも分かるかもしれないが、まあ暇潰しで読んでいただければ幸せだ。潰せるかどうかは分からないが。


パチスロ好き男子大学生なら、彼以外にも腐るほどいたが、彼の場合は病的。
朝起きてパチンコ店に並び、お昼も食べずにパチンコして、寝る。
それが1日の常套サイクル。
私と会う時もどことなくソワソワしていて、これもしかして俗に言う浮気なのではと杞憂した、当時のアタシを殴って蹴って蹴って殴って殴って蹴ってやりたい。

そのうち、彼の部屋に落ちているATMの領収書を拾うようになり、連日3万円やら5万円やらが引き出されている。
恋愛脳でピンボケ全開の女でも、彼ってばリッチなのね、玉の輿だぜ、とはならなかった。
覚悟を決めて、領収書を見つけたことを告白した日が、ユーモラスな世界へのエントランス。


彼はアタシにパチスロに関すること諸々、特にパチスロのせいで作った借金のことを打ち明けてくれたのだが、アタシはこれほどまでに信頼されているのかと、頭はお花畑。実に痛すぎる。
ただ正直に言えば、ドン引きした部分も大きかったのだが、それ以上に、彼氏という存在にしがみついている自分がいた。
なぜなら、アタシは決してモテる女ではなかったから、ほとんど洗脳的に彼にしがみつくしかないと思ってしまっていた。
人間、マインドセットの難易度は半端ではない。一度思い込んで、慣れてしまうと、なかなか抜け出すことはできない。

それからは順調に下り坂を転がり落ちていった。気持ちさえあれば大丈夫なんて、大嘘。
3万円、ありがとう、5万円、いつもありがとう、好き、最高、いいね。

何度モヤモヤを押し殺しただろうか。
一方で、金で繋がっている関係性は目に見えて分かりやすく、変な安心感がある。
それに、一度お金を渡してしまうと、次に断る理由が見えなくなる。
やがて彼はお金がなくなると、パブロフの犬のごとく、アタシのところへ来るようになり、アタシは彼に渡すお金をどうやって工面するかに執心するようになってしまった。

愚かな子猫ちゃんが金を借りる


彼はパチスロと借金返済を繰り返すだけなので、一介の女子学生が与える資金などすぐに尽きる。
アルバイトは多めにやっていたが、学生バイトなんて結局のところ大した額は稼げない。
割の良い塾講師と家庭教師の仕事を掛け持ちしたりもしたが、それでも全くもって足りず、資本主義社会の力学と理不尽さを思い知った。

でも、彼は待ってくれない。
時にニャンニャン泣いて、時に信じられないほどイライラして、周りの全てがアタシの心を乱した。

そのうちアタシは、借金でもしてやるか、死ぬわけでもないし守るものも別にない、と考えるようになった。
一応彼にそんな話をすると、俺のせいでゴメンとワンワン泣きわめき、最終的にはありがとうと言った。
その時も、なんだこの野郎とは一瞬感じるのだが、口に出して言えるほどではない。

晴れてアタシは、学生ローンなる消費者金融から、お金を借りることになった。
友人同士であっても金銭の貸し借りはNGと言われて育ったアタシが、消費者金融に飛びつくことになるとは思ってもみなかった。

※学生ローンについて

多くのキャッシング会社や大手消費者金融などの借り入れ条件を見ると、“20歳以上で安定した収入がある”と定義されていることが大半ですが、実はこの“安定した収入”というものにしっかりとした基準はありません。中でも、消費者金融が提供する、50万円以内の貸出が原則となる小口融資サービスのことを学生ローンと呼びます。勤務先の在籍確認もないので、審査が通りやすいことが特徴です。なお、会社によっては社会人でも借りられる学生ローンもありますが、賃金業法で定められる総量規制のもと、年収の3分の1以上のお金を借りることはできません。

絵に描いたような泥沼


消費者金融に足を運ぶ緊張とは裏腹に、アタシは即日30万円を手にした。
学生ローンは、基本的に親頼み。アルバイト先情報の記入もあったが、実家が持ち家かどうか、両親の仕事は何かなど、親に関する質問がほとんどだ。
相手からしたら、いざという時に取り立てられるところに、お金を貸したいのは当然だ。

こうして私はどんどんハマっていくことになる。
相手も、ちゃんと収入がある親を持つ学生には、どんどん借したがる。

新学期、夏休み、クリスマス、冬休みなど、レジャーや休暇シーズンでお金のかかる頃合いには、丁寧な電話も貰うようになる。
かくして大学2年生の冬、当時20歳のアタシの借金は200万円を超えるまでに膨れ上がる。

金が欲しい。だから、起業しかなかった。


借金生活が割と長くなると、利息の支払いも本当に嫌になってくる。
極めて負の惰性になってくる。
当時最大5社から借金していたアタシは、利息だけで月25,000円を支払わなければならなかった。
自ら借りたにも関わらず、そもそも貸す会社がなければ借金なんてしないで済んだのに、などと思い始めた。
彼にお金を渡すのは仕方ないとしても、消費者金融に余分なお金を渡すのは意味が分からない、と不可思議な理論で物事を考えるようになった。


要するに、これが愛なのか。
お金の本質は、信用か。
確かに信用があるところに、お金は出入りするものだ。
非常に的を射た解釈が、稚拙な脳をよぎる。

とんでもなく頭が良くなった気もしたが、現実問題、とにかく元金を減らすしかない。でも、彼に渡すお金も確保しなくてはならない。
ここまでくると、一度は断念した夜の仕事という選択肢が頭をもたげたが、ひとつ大きな問題が立ちはだかる。
長い借金生活で、知らず知らずの間にストレスやら何やらを溜め込んでいたアタシは、彼と付き合う前と比べて20キロ以上の大増量を記録し、相撲部屋かお笑い芸人養成所に入りたいんだろ状態になっていた。
もういろいろと諦めようかと考えた時、起業だ、労働ではなく所有だ、という本質的アイデアが降りてくる。


当時のアタシは借金を抱えマイナス収支で、これといったコネもなく、身体を動かす仕事も大嫌い。もうネットしかない。例えるならば、10色20色のクレヨンを持っているよりも、2色3色くらいしか手元にない方が、描く被写体は決まりやすいし動きやすいのだと強く実感。
パワポやエクセルなど、定番オフィス系ソフトを使い、社内資料のまとめを行うサービスを売り出した。ブログやメルマガも作って運用した。
学生には、時間だけはある。家でできることなら何だっていい。イラストを描いて挿れたり、画像をレタッチしたり、頼まれれば何でもやった。元手は要らない。徐々にリピーターが増えては喜んで、クレームもたくさん食らってむせび泣く。そんな感じで、ひたすら地道に過ごした。


なるほど、完全に人生の縮図だ。
何不自由なく守られて生きる人間が、何のために仕事をするのか、何のためにお金を稼ぐのか、そんなことをグダグダ考えていられるだけ幸福なのだと気付いた。
考えるだけ無駄。行動しろ。選択だ。その意味が氷解した。
何より、赤の他人が仕事で自分を頼ってくれていることが純粋に嬉しかった。
そして、アタシが欲しいのは男でも何でもないと悟り始める。

借金を返済する他、手元にいくばくかを残すようになり、それを使ってさらにいろんなことができるようになった。投資は非常に意義深い。
ここが未来と本当に向き合った瞬間。
陳腐な言い方をすれば、自信が生まれたってことなのかもしれない。
自信というのは持つものではなく、生まれ来るものだと知った。

DO THINGS THAT ARE TRUE TO YOU


金で買えない価値があるなんて言うが、逆に言えば、金で手に入るものに本質的価値はないのか。
本当は何が欲しいのか、未来に何を残すべきか。
長期的快楽主義とでも言おうか。


何が神聖なんだ?
何のために生きるんだ?


答えはきっと、シンプルだ。
どこへだって行けるんだ。




ほら、別に面白くはない。

でも、たまにはこんな話譚があっていい。
ハレもいいけど、ケの方が心象風景を映し出すと思っているから。





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