公開日:2024年12月19日
当事者のどちらにも過失のある交通事故(物損事故)では、それぞれの過失割合に応じて賠償金額が決まります。そして当事者間の話し合いで合意に至った場合には、示談書を作成することがあります。
示談書は交通事故の事実や合意内容を示す書類で、適切な補償を受け、後々のトラブルを未然に防ぐのに役立ちます。しかし、いつ、どのように作成するのか、詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、交通事故の示談書の概要や書き方、作成時の注意点などをわかりやすく解説します。
相手方のいる交通事故では、それぞれの過失割合や賠償金額を取り決める必要があります。
示談とは、裁判をせずに当事者間で話し合って事故の事実や賠償責任の詳細などを決定することを指し、民法上の「和解契約」に該当します。相手方のいる交通事故の解決方法には示談以外にも調停や訴訟があります。しかし、示談を選ぶ方の割合は調停や訴訟の3倍にものぼり、示談で解決する方が多い傾向にあります※1。
交通事故の示談にかかる期間は、1~2ヵ月程度が目安です。ただし、相手方となんらかの問題が発生している場合には、3ヵ月以上の長期になる可能性もあります。
示談書は示談で取り決められた合意内容を明文化した書類です。交通事故のなかでも、とくに双方に過失のある物損事故のときに作成されます。当事者双方が記載内容を確認のうえ、それぞれが署名・捺印したものをお互いに一部ずつ保管します。
双方が納得する内容の示談書を作成することで、「賠償金を支払ってもらえない」「支払期日を守ってもらえない」「追加で請求された」など、後日のトラブルを未然に防ぐのに役立ちます。
※1 出典:警察庁「令和5年度犯罪被害類型別等調査 調査結果報告書」
調停や訴訟ではなく、示談で相手方と交渉したとき、合意内容を記載する書類には示談書のほかに「免責証書」があります。免責証書の目的は、過失割合と損害賠償額への合意、「これ以上請求はしない」と加害者が被害者から承諾を得ることです。
記載内容は示談書と変わりませんが、示談書は当事者の双方が署名・捺印する必要があるのに対し、免責証書は被害者側の署名・捺印のみで合意が成立する点が異なります。
免責証書は被害者からの署名・捺印だけのため、示談書よりも作成に時間がかかりません。しかし、加害者にも損害のある交通事故で免責証書を選ぶと、後遺障害の症状悪化などを理由に、加害者から被害者へ追加で賠償請求がおこなわれる可能性もあります。
そのため、免責証書はどちらか一方に過失が付かない「0:100」の交通事故で作成されるのが一般的です。
交通事故の補償に自動車保険を利用する場合は、通常、保険会社が免責証書を作成します。
「公正証書」とは、当事者から嘱託された公証人が決められた様式にもとづいて作成し、当事者が署名・捺印することによって完成する公文書を意味します。示談書のように一般的な立場にある私人が作成する書類よりも信頼が高く、強制執行力があります。また、作成された文書の原本は公証役場で保管されるため、紛失する心配もいりません。
示談書には決まったフォーマットはありません。当事者の署名と捺印で有効となり、双方の合意を確認できる書類であっても法的な執行力はないため、記載内容が守られないときにはさらなる話し合いや裁判が必要です。
また、交通事故の示談書は、公正証書としての作成が必須ではありません。しかし、相手方が任意保険に加入していない、賠償金額が高額で支払いが長期間続くなど、相手方の経済状況に対して不安を抱えているケースでは、示談書を公正証書にしておくと安心です。ただし、公証人に依頼する費用が発生する点に注意が必要です。
示談は民法上の和解契約(民法第695条)にあたり、事故の当事者がお互いに条件を譲り合って成立します。
民法上の和解が成立すると賠償額が確定するため、後から異なる事実が判明しても主張できず、示談の内容は簡単には覆せません。当事者間で意思疎通ができていれば、口頭による示談も有効です。
このように一度成立すれば効力が認められる示談書ですが、先述のとおり法的な執行力はありません。そのため、以下のような対策を取っておきましょう。
【交通事故の示談書を準備する際の対策】
示談書に決まったフォーマットはなく、誰でも作成可能ですが、交通事故の補償に関わる書類を「自作しなければならないのか?」と疑問に思われている方や、ご自身で作成することに不安を抱えている方もいるかもしれません。そこで、交通事故の相手方と示談交渉をするとき、どのように示談書を作成するのか具体的に確認しておきましょう。
多くの自動車保険には、示談交渉サービスが付帯されています。当事者が自動車保険に加入している場合、示談交渉は当事者に代わって保険会社がおこないます。当事者間だと時間や手間のかかる話し合いも、保険会社を介するとスムーズに進むでしょう。示談書作成の流れは次のとおりです。
【保険会社を介して示談交渉をする場合】
保険会社を介して示談交渉をする場合の流れ
保険会社から示談書が届くまでの期間は、示談成立後、おおよそ1~2週間ほどです。
自動車保険に加入していない場合、ご自身での示談交渉や示談書作成が必要です。先述のとおり、示談書には決まったフォーマットはなく、ご自身で作成しても効力を持ちます。たとえば、保険会社のウェブサイトなどからダウンロードできるひな形を使用すると良いでしょう。ご自身で作成する場合の示談書作成の流れは次のとおりです。
【ご自身で示談交渉をする場合】
ご自身で示談交渉をする場合の流れ
ご自身で示談交渉や示談書の作成をする場合には、診断書や交通事故証明書など、主張を裏付ける具体的な証拠をそろえることも大切です。また、弁護士などの専門家にアドバイスをもらうと、条件交渉に役立ちます。
前述のとおり、交通事故の示談書にフォーマットやテンプレートはありませんが、示談書として効力を持たせるために記載すべき事項は決まっています。
保険会社が示談書を作成する場合は必要事項があらかじめ記載されており、当事者は署名・捺印だけで済むことがほとんどです。なお、ご自身で用意する場合は、保険会社がウェブサイトで提供している無料の交通事故示談書テンプレートなどを活用すると良いでしょう。
以下で、交通事故の示談書の記載事項と書き方を解説します。
まず記載事項のひとつとして、当事者双方の住所や氏名を記載します。
車両に関係する事故の場合は、自動車やバイクの登録ナンバーも記載しましょう。
次に、交通事故の発生日時や発生場所、事故が起きた原因や事故内容などを記載します。車両の位置関係、損害物など事故の事実がわかるように簡潔に書きましょう。
交通事故証明書が手元にあれば、事故の事実を客観的に確認できて便利です。
交通事故証明書は、警察から提供される資料にもとづき、交通事故の事実を確認したことを証明する書類です。当事者あるいは代理人であれば、自動車安全運転センターの窓口または郵便局、インターネット※2から申込めます。
※2 出典:「各種証明書のご案内」(自動車安全運転センター)
交通事故の示談内容には、事故に関わる次の事項を記載します。
【交通事故の示談内容】
このように、どちらがどちらに対して、どれだけの賠償金額を支払うのかを記載します。金額と共に、いつまでにどのように支払われるのか、方法や期限を書くことも大切です。当事者それぞれの負担額(賠償金額)は、実際の損害額から過失相殺された金額と受け取り済みの金額を差し引いた支払い金額を記載しましょう。
示談書の記載内容に誤りがなく納得できれば、当事者双方が署名・捺印します。また、示談書上の日付(記入日)の欄には署名・捺印した日を記入します。
使用する印鑑は実印と認印のどちらでも法律上の効力は変わりません。しかし、実印は地方自治体に届けを出し、印鑑証明書の交付を受けられるようにしてあるものなので、当事者の印鑑である証明が可能な印鑑です。そのため、実印を使って印鑑証明書を添えると、信用力や有効性を高めるのに役立つでしょう。
加入する自動車保険に示談交渉サービスがあれば示談書作成のサポートを受けられますが、もしご自身で作成することになった場合は以下のポイントに注意してください。
【ご自身で示談書作成する際の注意点】
それぞれ詳しくみていきましょう。
示談書は、当事者それぞれの署名・捺印が終わると、内容を簡単には覆せません。示談書作成後に後遺障害が判明した、公序良俗に反する内容だと判明したなど、内容撤回や追加請求のできるケースもあります。しかし、異議の申し立てが通るのは非常に稀なケースであると考えておきましょう。
誤りや不審点があるなど、内容に納得できない状態では署名・捺印しないように十分に気を付けてください。ただし、詳しくは後述しますが交通事故の損害賠償請求権には時効があるため、交渉や示談書作成に時間をかけ過ぎないことも重要です。
示談書の作成は、交通事故の損害状況がはっきりしてから作成しましょう。示談書の内容は原則として撤回できないため、示談書を作成した後に損害費用がわかっても原則として追加請求はできません。
そのためケガの治療費が確定した後や後遺障害の等級が認定された後、車両の修理費が請求された後など、損害の見通しが立ってから、適正な賠償金額にもとづいた示談書を作成しましょう。
示談書には、「示談成立後は双方とも追加で請求しない」などの文言で、清算条項(権利放棄条項)を記載するのが一般的です。清算条項とは示談書の内容から外れた賠償金を請求しないとする取り決めのことで、保険会社の作成する示談書のうちのほとんどに記載されています。
先述のとおり、示談書で合意に至った内容をひっくり返すのは困難ですが、内容によっては新たに発覚した損害を追加請求できる可能性もあります。たとえば、被害者の後遺症が悪化するなど著しい事情の変更があった際には、「後からの請求」は受付られる場合があります。
清算条項は不当な請求などのトラブルを防ぐと共に、後遺障害などで後から請求する権利を放棄することにもなるため、記載するかは慎重に検討しましょう。
交通事故による損害には、民法709条の「不法行為」にもとづいた損害賠償責任が生じます。ただし、加害者に対する損害賠償請求権には時効があります。
損害賠償請求権の時効
人身事故による損害への請求権 | 損害および加害者を知った日から5年、不法行為のあった日から20年 |
物損事故による損害への請求権 | 損害および加害者を知った日から3年、不法行為のあった日から20年 |
自賠責保険への被害者請求権 | 損害および加害者を知った日から3年、不法行為のあった日から20年 |
ひき逃げなど人命に関わる事故で加害者がわからなければ、不法行為の時効は20年なので、交通事故による損害を知った日から5年後に人身事故の加害者がわかった場合でも、加害者が判明した日から5年間、不法行為のあった日から20年間は損害賠償の請求が可能です。
しかし、交通事故の発生日から20年経っても加害者を特定できなければ、損害賠償請求権を失うことになります。
このように、交通事故の賠償請求には時効があるため、示談交渉や示談書の作成は時間のかけ過ぎに注意が必要です。保険会社を介さずご自身で示談すると交渉が長期にわたる可能性もあり、状況によっては時効により請求権を失う恐れもあります。
作成後の示談書に保管義務や保管期限はありませんが、損害賠償請求権の時効成立までは持っておけば、交通事故のトラブルにも対処しやすいでしょう。
当事者による示談交渉は客観的な判断がむずかしく、話し合いがスムーズに進まない恐れもあります。
自動車保険の多くが示談交渉サービスを提供しており、交通事故に遭ったときの相手方との交渉や示談書の作成などをサポートしてもらえます。
また、もらい事故などで示談交渉サービスを使えないときにも、「弁護士特約」を付帯しておけば相手方への賠償請求に備えられます。弁護士特約とは、交通事故に限らず日常生活全般で当事者になったとき、弁護士への相談費用や損害賠償請求のための委任費用を補償する特約のことです。
交通事故では自動車保険の補償やサービスが役立ちます。ご加入中の自動車保険を定期的に見直すと共に、他社の保険と比較・検討することがおすすめです。
なお、自動車保険の見直しなら、一括見積もりサイトを活用すると便利です。一括見積サイトであれば、複数の自動車保険の見積もりを一度にまとめて取り寄せることができます。
相手がいる交通事故で損害が生じたとき、とくに双方に過失があって物損をともなう場合には、それぞれの過失割合や賠償金額を取り決める必要があります。
その方法のひとつに示談があり、当事者あるいは代理人による話し合いで交渉します。合意条件が決まったら、後日のトラブルを防ぐためにも示談書を作成しましょう。
当事者による示談や示談書の作成も可能ですが、自動車保険に加入していれば、保険会社が当事者に代わって相手方との交渉、示談書の作成をする示談交渉サービスを利用できます。また、もらい事故などで示談交渉サービスを使えないときにも、自動車保険の弁護士特約により法律のプロのサポートを受けられます。
示談書は法律上の和解契約にあたり、作成後に内容を覆すのは困難です。そのため、納得できる内容となっているか、署名・捺印の前に慎重に確認してください。
交通事故は誰にとっても他人ごとではありません。交通事故への不安を解消したい場合は、定期的に自動車保険の補償やサービスを見直して、その都度より安心できる内容にバージョンアップしておきましょう。
ファイナンシャルプランナー。2006年11月 卓越した専門性が求められる世界共通水準のFP資格であるCFP認定※を受けると同時に、国家資格であるファイナンシャル・プランニング技能士1級を取得。2017年10月 独立。主に個人を相手にお金に関する相談および提案設計業務を行う。個人向け相談(資産運用・保険診断・税金相談・相続対策・家計診断・ローン住宅購入のアドバイス)の他、資産運用など上記内容にまつわるセミナー講師(企業向け・サークル、団体向け)を行う傍ら、執筆・監修業も手掛ける。これまでの執筆・監修実績は3,000本以上。
【資格情報】 日本FP協会会員(CFP®)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー、住宅ローンアドバイザー、証券外務員
※CFP®、CERTIFIED FINANCIAL PLANNER®、およびサーティファイド ファイナンシャル プランナー®は、米国外においてはFinancial Planning Standards Board Ltd.(FPSB)の登録商標で、FPSBとのライセンス契約の下に、日本国内においてはNPO法人日本FP協会が商標の使用を認めています。
※このページの内容は、一般的な情報を掲載したものであり、個別の保険商品の補償/保障内容とは関係がありません。ご契約中の保険商品の補償/保障内容につきましては、ご契約中の保険会社にお問い合わせください。
※税制上・社会保険制度の取扱いは、このページの掲載開始日時点の税制・社会保険制度にもとづくもので、全ての情報を網羅するものではありません。将来的に税制の変更により計算方法・税率などが、また、社会保険制度が変わる場合もありますのでご注意ください。なお、個別の税務取扱いについては所轄の税務署または税理士などに、社会保険制度の個別の取扱いについては年金事務所または社会保険労務士などにご確認のうえ、ご自身の責任においてご判断ください。
(掲載開始日:2024年12月19日)
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