最終更新日:2025年1月30日
自動車保険は大きく分けて2種類あります。法律で加入が義務付けられている「自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」とします)」と、ご自身の意思で加入を決めることができる自動車保険、いわゆる「任意自動車保険」(以下「任意保険」とします)です。
この記事では、自賠責保険と任意保険は何が違うのか、自賠責保険に加入しないことでどのようなリスクが発生する可能性があるのか、また、任意保険の種類や補償内容もあわせて解説します。
自動車保険の自賠責保険とは、すべての車に対して加入が義務付けられている保険です。車だけではなく、バイク(⼆輪⾃動⾞、原動機付⾃転⾞)を運⾏する場合にも、加⼊が義務付けられています。自賠責保険に加入しなかった場合は、運転することができず車検も受けられないため注意が必要です。
自賠責保険では、物損事故は補償の対象ではなく、人身事故が起こったときの対人損害賠償のみ対象となります。支払限度額は被害者1人あたりに対して決められており、被害者は加害者が加入している保険会社に直接保険金を請求することが可能です。
治療費などの一時的な出費が生じたときは、保険金確定の前に一部を受け取ることができる仮渡金(かりわたしきん)制度があります。ただし、被害者に重大な過失があった場合は、自賠責保険金が減額されることがあります。
一方、任意保険は、自賠責保険だけでは補えない部分を上乗せして補償する保険です。自賠責保険とは異なり、加入義務はありません。
自賠責保険と任意保険では、補償の範囲に大きな違いがあります。
自賠責保険の対象は、相手方への補償のなかでも人への補償(対人賠償保険)のみとなります。そのため、相手の自動車などの財物に与えた損害に対する補償(対物賠償保険)や、契約者自身への損害に対する補償は受けられません。
自賠責保険と任意保険の補償の違い
※ (傷害の場合)120万円まで(死亡の場合)3,000万円まで(後遺障害の場合)4,000万円まで
このように補償の範囲が限定されている理由は、自賠責保険の目的が交通事故被害者の「最低限の救済」だからです。そのため、対人賠償で支払われる保険金の限度額は任意保険と比較すると低くなっています。
自賠責保険の支払限度額
損害の内容 | 支払限度額(被害者1名あたり) | |
---|---|---|
ケガ | 治療関係費、文書料、休業損害、慰謝料など | 120万円 |
後遺障害 | 逸失利益、慰謝料 | 後遺障害の程度により75万円~4,000万円 |
死亡 | 葬儀費、逸失利益、慰謝料 | 3,000万円 |
一方、任意保険は、自動車に関する幅広いリスクに備えられる保険で、補償の範囲は自賠責保険よりもかなり広くなっています。
自賠責保険では、相手方への賠償責任は人への補償(対人賠償保険)のみでしたが、任意保険では財物に対する補償(対物賠償保険)や、契約対象の車の運転者自身や同乗者を補償する「人身傷害保険(人身傷害補償保険)」「搭乗者傷害保険」「自損事故保険」「無保険車傷害保険」、さらに、契約対象の車を補償する「車両保険」なども用意されています。
任意保険を契約する際は、これらのなかから必要な補償を選択することができます。
また、任意保険の示談交渉サービス(示談代行)を利用すると、保険会社が相手方や相手方の保険会社との示談交渉をおこなってくれます。このように相手側と直接交渉しなくて良い点も、任意保険の魅力のひとつといえるでしょう。
ただし、もらい事故など、被保険者に過失のない事故の場合は、示談交渉サービスを利用することができません。
自賠責保険は、前述したように全ての自動車に加入が義務付けられています。では、自賠責保険に加入しないと、どのようなリスクがあるのでしょうか。
【自賠責保険に加入しない場合のリスク】
それぞれについて、以下で詳しく解説します。
自賠責保険に未加入の場合の罰則
※ 行政処分の前歴が0回の場合
自賠責保険とは、交通事故被害者の救済を目的とする保険で、自賠責保険に加入していない車は運行できないと定められています※1。そのため、「強制保険」とも呼ばれます。
自賠責保険に加入していなければ、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金に加え、違反点数6点が付され、即座に免許停止処分となるため注意が必要です。
また、自賠責保険に加入している場合でも、証明書を所持せずに運転していると、30万円以下の罰金を科せられることがあります。
※1 出典:e-gov法令検索「昭和三十年法律第九十七号 自動車損害賠償保障法」
車を所有すると、新車登録から3年後に最初の車検を受け、また以後2年ごとに受ける必要があります。車検を受けるときは自賠責保険の保険証や共済証書が必要なため、自賠責保険に加入していないと車検を受けられず、車両を使えなくなることがあります。
車検切れの車を公道で運転した場合は無車検者運行となり、違反点数6点が付されるだけでなく、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます※2。
※2 出典:e-gov法令検索「道路運送車両法第58条1項、108条」
無保険での運転は6点減点で、免許停止になります。また、自賠責保険の有効期限が切れているときも無保険扱いになるため注意しましょう。
加害者が自賠責保険・共済に加入していない場合は、国土交通省が加害者や車の所有者などに代わって被害者に損害のてん補をおこなう可能性があります。
このようなケースでは、被害者が加害者や車の所有者に請求できた損害賠償請求権を国土交通省が代わりに取得し、損害賠償責任者に対して請求します。
自賠責保険の保険料は車種(自家用乗用車、軽自動車、原動機付自転車など)によって決まるため、どの保険会社に加入しても保険料は同じです。車種と保険期間別の自賠責保険料は以下をご覧ください。
自賠責保険料
車種 | 60ヵ月 | 48ヵ月 | 36ヵ月 | 24ヵ月 | 12ヵ月 |
---|---|---|---|---|---|
自家用乗用車 | ― | ― | 23,690円 | 17,650円 | 11,500円 |
軽自動車 | ― | ― | 23,520円 | 17,540円 | 11,440円 |
小型二輪自動車 (250㏄超) |
― | ― | 10,490円 | 8,760円 | 7,010円 |
軽二輪 (125㏄超~250㏄以下) |
14,200円 | 12,470円 | 10,710円 | 8,920円 | 7,100円 |
原動機付自転車 (125㏄以下) |
13,310円 | 11,760円 | 10,170円 | 8,560円 | 6,910円 |
●令和5年4月1日以降始期の契約に適用。離島以外の地域(沖縄県を除く)
●参照:国土交通省「主な車種・期間の保険料(共済掛金)」
自賠責保険料は、以下の一般社団法人日本損害保険協会のウェブサイトからご自身で試算できます※3。お住まいの地域と車種、保険期間を選んでください。
※3 参考:一般社団法人 日本損害保険協会「自賠責保険料の試算」
自賠責保険は、車やバイクの販売店、保険(共済)代理店や各損害保険会社、共済協同組合・農業協同組合、ガソリンスタンド、自動車整備工場などで加入できます。
なお、250㏄以下のバイク(原付等含む)の場合は、一部のコンビニ、郵便局、インターネットでも加入できます。
契約期間は車種によって12ヵ月~60ヵ月のなかから選択できます。加入時には、自動車税納税証明書などの書類が必要です。加入する場所によって異なるため、事前に問い合わせておきましょう。
自賠責保険に加入すると、自賠責保険証が交付されます。また、自賠責共済(自動車損害賠償責任共済)に加入したときは、自賠責共済証明書が交付されます。いずれも保険期間(共済期間)や自動車の種別、車台番号などが記された重要な書類です。
受け取ったら、すぐに記載事項に間違いがないか確認しましょう。間違いがあると、保険金(共済金)の手続きに支障が生じることがあります。
自賠責保険に加入していても、運転時に証明書を携帯していないと罰金の対象となるため、必ず車に備えておきましょう。
なお、250㏄以下のバイクは、加入した際に受け取る保険・共済標章(ステッカー)を必ずナンバープレートの左上部に貼りましょう。
自賠責保険の更新は、保険満期日までに自賠責証明書や車検証、自賠責保険満期のお知らせ(ハガキ)を加入した場所に持参することで手続きができます。
廃車などの理由により自賠責保険を解約するときは、加入した保険会社に問い合わせてください。ただし、郵送でも手続きができる場合があります。
自賠責保険には仮渡金を利用できることなどのメリットがあります。万が一、交通事故を起こしてしまったときに備えるため、また、被害者に適切な補償をおこなうためにも、自賠責保険へ加入しましょう。
任意保険に加入しない方のなかには、「自賠責保険だけで十分だから入らなくて良いだろう」と考える方もいるかもしれません。確かに任意保険への加入は義務ではありませんが、自賠責保険だけで十分といえるかどうかはさまざまなリスクを考慮して判断する必要があります。
たとえば、過去の裁判で認定された交通事故の高額賠償の判例をみてみましょう。
交通事故の高額賠償の判例(人身事故)
認定総損害額 | 態様 | 裁判所 | 被害者 | ||
---|---|---|---|---|---|
年齢 | 性別 | 職業 | |||
5億2,853万円 | 死亡 | 横浜地裁 | 41歳 | 男性 | 開業医 |
4億5,381万円 | 後遺障害 | 札幌地裁 | 30歳 | 男性 | 公務員 |
4億5,375万円 | 後遺障害 | 横浜地裁 | 50歳 | 男性 | コンサルタント |
4億3,961万円 | 後遺障害 | 鹿児島地裁 | 58歳 | 女性 | 専門学校教諭 |
3億9,795万円 | 後遺障害 | 横浜地裁 | 21歳 | 男性 | 大学生 |
●「認定総損害額」とは、被害者の損害額(弁護士費用などを含む)をいい、被害者の過失相殺相当額および自賠責保険などのてん補額を控除する前の金額をいう。
●出典:損害保険料率算出機構「自動車保険の概況2023年度版」(2024年4月発行)」をもとに作成
前述のとおり、自賠責保険の対人賠償で補償される支払限度額は相手が死亡した場合で3,000万円、相手がケガをした場合で120万円、相手に後遺障害が生じた場合で4,000万円です。
そのため、上記の表のような高額賠償が認定されるケースがあることを考えると、けっして十分な補償とはいえません。
任意保険に加入していない場合、自賠責保険から支払われる保険金を超える金額はご自身で負担することになります。被害者に十分な補償をおこなえないうえに、事故により人生が一変してしまう恐れがあるため、任意保険にも加入するべきと考えられているのです。
また、自賠責保険には相手方の財物に対する補償の対物賠償は含まれていません。任意保険に加入していない状態で物損に関する損害賠償金の支払い責任を負った場合、ご自身で全額を支払うことになるのです。
自賠責保険は事故の被害者のケガ・後遺障害・死亡を補償する保険です。
そのため、対物賠償や搭乗者の傷害、車両に関する補償はありません。ご自身や搭乗者の傷害、車両などに備えるためにも、任意保険を検討しましょう。
また、事故の相手が任意保険に加入していないケースもあります。とくに注意したいのが、ご自身に過失のない「もらい事故」などです。
ご自身に過失がない場合、保険会社による示談交渉の代行サービスを受けることができないため、任意保険に加入していない相手と直接示談交渉をすることになります。
相手が任意保険に加入していない場合、損害賠償請求をしても損害賠償金を支払ってもらえない可能性があります。また、示談交渉が進まないと、事故によるケガの治療費やご自身の車の修理代、休職による損失など膨大な金額をご自身で負担する必要も出てくるでしょう。
しかし、任意保険に加入していれば、ご自身の契約している人身傷害保険や車両保険などから保険金が支払われる可能性があります。
また、多くの任意保険は無保険車傷害保険を自動付帯しているので、死亡事故や後遺障害を負うようなケガをした場合は、こちらから保険金が支払われる可能性もあります。さまざまなリスクに備えるためには、任意保険に加入しておくべきといえるでしょう。
「任意保険」は、損害の補償対象により4つに分類することができます。
具体的には、事故で相手が亡くなった場合やケガをしたとき、あるいは相手のものを壊して法律上の損害賠償責任を負ったときなどに補償を受けられる「対人賠償責任保険」「対物責任補償保険」、運転者や同乗者が事故でケガをしたときなどに補償を受けられる「傷害保険」、偶然の事故で契約車両が損害を被ったときなどに補償を受けられる「車両保険」です。
任意保険で補償される内容
任意保険について詳しくは、以下をご覧ください。
自賠責保険はどの保険会社でも一律の保険料ですが、任意保険は異なります。どのような補償がご自身に必要か考えたうえで、いくつかの保険会社を比較してから選びましょう。
任意保険の保険料は、一括見積もりサイトを利用すると手間をかけずに複数社の見積もりを取り寄せることができるためぜひご利用ください。
自賠責保険への加入は、運転者に課せられた義務です。万が一のときに被害者に必要な補償をおこなうためにも、必ず加入しましょう。
ただし、自賠責保険だけでは、相手の財物に与えた損害に対する補償(対物賠償責任保険)や、ご自身への損害に対する補償は受けられません。
また、自賠責保険では、補償の対象、補償の上限額共に限定されているため、重大な人身事故や物損事故などを起こした場合に、多額の損害賠償金を自己負担しなければならないおそれもあります。そのため、より幅広いリスクに対応できる任意保険への加入も検討すると良いでしょう。
実際に、任意保険を選ぶ際は自動車保険のシミュレーションをおこなってみることをおすすめします。
一括見積もりサイトを利用すれば一度に複数社の任意保険の見積もりを取ることができるので、保険料、補償内容、サービスなどを比較しやすく、ご自身に合う任意保険を見つけやすいというメリットがあります。
生命保険会社に約8年勤務後、住宅建築の建設会社に19年勤務。現在も建設会社で住宅取得資金や住宅ローンアドバイスを行う。また、ファイナンシャルプランナーとして、ライフプランをもとにした教育資金や自営業者の老後資金、保険見直しなどのアドバイスを行う。主婦・母・自営業の嫁・親の介護の経験を活かし、相談を受けている。
(地域密着型・お客様に寄り添うFP)
https://takasugi-fp.com
【保有資格】
AFP・2級ファイナンシャル・プランニング技能士・住宅ローンアドバイザー
※このページの内容は、一般的な情報を掲載したものであり、個別の保険商品の補償/保障内容とは関係がありません。ご契約中の保険商品の補償/保障内容につきましては、ご契約中の保険会社にお問い合わせください。
※税制上・社会保険制度の取扱いは、このページの最終更新日時点の税制・社会保険制度にもとづくもので、全ての情報を網羅するものではありません。将来的に税制の変更により計算方法・税率などが、また、社会保険制度が変わる場合もありますのでご注意ください。なお、個別の税務取扱いについては所轄の税務署または税理士などに、社会保険制度の個別の取扱いについては年金事務所または社会保険労務士などにご確認のうえ、ご自身の責任においてご判断ください。
(掲載開始日:2023年3月23日)
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