2017.01.30

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.3 (2/4)




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11:10 │ 大久保通り/コリアンタウンの気勢

バスストップ


/OKUBO-DORI



黒船ガールとのセッションも小慣れてきたと思っていた矢先、ロシアからの刺客にその驕りを見事に崩されてしまった。

これまでアテンドしたフランス人のジェリーもアメリカ人のサラも、ある程度日本人たる空気を纏った外国人だった。
に対してアリョーナは、良くも悪くもまだまだ日本に染まっていない外国人。
自己主張はハッキリしているし、現役東大生というだけあって思考がクリアで、下手なことをうかうか言ってられない。


忘れかけていた緊張感が蘇ってきた。


アリョーナ

快活なコリアンタウンを闊歩



山手線内で最も標高のある箱根山を“下山”した後、再びバスに乗って停留所「大久保通り」で下車し、コリアンタウンを散策。
カラフルな看板が立ち並び、雑多で活気溢れるアジアの街角といった風合いに、自然と心も弾む。


「日本では割と韓流アイドルが人気あったりするけど、アリョーナは好き?」

―――あんまり興味ないですね。



あっさり撃沈。




もっと高まりそうなネタ、寒さを吹っ飛ばす熱源はどこか。

そうだ、前情報で聞いていた、彼女が好きだという“旅”だ。
こういう時こそ、ちゃんと相手の領分に飛び込まねばなるまい。


アリョーナ

ランチはもちろん韓国料理



「アリョーナは日本全国いろんなとこ行ってるらしいね」

―――そうなんです。北海道、秋田、熊本、鹿児島、沖縄以外は、全部の都道府県に行きました。

「スゴいね、一番多く行ったのはどこ?」

―――山形ですね。モデルの仕事で2回、プライベートで2回行って、ほとんどの地域を回りました。今度また行く予定なんです。

「寒い時期に寒いところ行くなんて、さすがロシアの人って感じだね」

―――いや、それは違います!




うわ、まずい。
また地雷を踏んでしまったか。




―――私の出身はクラスノダール(Krasnodar)っていうトルコに近い、ロシアのリゾート地なんです。冬は東京と同じくらいの寒さだし、夏は普通に暑いので、そもそも私は寒いのが苦手なんです。ロシアだって夏は暑くなるんですよ。

「そ、そっか、まあロシアは極寒の地っていうイメージがあるけど、あれだけ広いからいろんな場所があって当然だよね。(気を取り直して)山形はどんなところが好き?」

―――温泉がたくさんあるのがいいですね。山形は35あるすべての市町村で温泉が湧いてるんですよね。あと日本酒なんかは、山形の出羽桜が一番好き。




よしよしよし、いい感じに暖かくなってきたではないか。


アリョーナ

大久保の商店街を一歩外れると住宅街の路地が広がる



「今まで行った日本の地域でベストはどこ?」

―――それよく聞かれるんですけど、ひとつは選べないですね。

「じゃあベスト3は?」

―――う~ん難しいですね。

「ベスト5は?」

―――それも答えられません。

「じゃあいくつだったら答えられるの?(笑)」

―――例えば、どこの県の海が良かった?とか、何々をしに行くならどこ?とか、もう一度行ってみたい都道府県は?みたいな質問であれば答えられます。

「なるほど。そしたら質問を変えよう。アリョーナの親友が3泊4日でロシアから日本に遊びに来たとする。どこ案内する?」

―――いや、わざわざロシアから来て、4日間だけの滞在なんてまずないですから、現実的な質問ではありません。

「はっはっは、そりゃそうかもしれないけど、たとえ話というか質問の設定だからさ(笑)」


アリョーナ



―――だってロシアの人は十数時間とか費やして、結構頑張って日本に来るんですよ?航空券も高いし。なのに4日しかいないなんて、あり得ませんからね。

「でもさ、4日間だけアリョーナにアテンドしてほしいって場合とかもあるでしょ?」

―――私の友だちにそういう人はいませんね。

「分かりました、じゃあ1週間滞在するなら、どこ案内する?」

―――そうなると平凡かもしれないですけど、東京、京都、大阪っていう典型的なルートはやっぱり外せないでしょうね。

「そのコが日本の田舎も見たいってリクエストしたら?」

―――それは、そのコが田舎の何を見たいかに拠りますね。




ふむ、極めて的確だが、いわゆるアソビがない。
合理的で遠回りしていない、といった方が正確か。




―――え、どうしたんですか?私の答え、現実的ですよね?

「うん、この上なく現実的だよ」


13:40 │ 抜弁天/風の抜ける神社

バスストップ


/NUKEBENTEN



抜弁天



大久保通りからバスに乗り、東新宿を通過して抜弁天へ。

新宿区余丁町にある“抜弁天”こと厳島神社は、少々変わった神社だ。
交差点に面したところにある小さな神社なのだが、参道が南北に通り抜けられるという面白い造りになっている。
読んで字のごとく、それが“抜弁天”という通称の由来らしいのだが、参道を通り抜けながら気軽にお参りできる風通しのいい神社だ。


アリョーナ

江戸の六弁天のひとつでもある厳島神社



旅の話はさらに続く。



「モデルの仕事で地方に行くことも結構あるの?」

―――地方に行くのは2割が仕事で8割はプライベートですね。東北と四国はほとんど仕事で回りました。やっぱり旅が好きだから、地方の観光を盛り上げるような仕事をしたいって、いつも周りにアピールしてるんです。

「なるほどね」

―――東北とか大好きですね。2011年の大震災の後、外国人が東北にあんまり行かなくなっちゃったじゃないですか。どうしても原発の影響を考えてしまうみたいで。だから、東北はもう安全だし、いいところだっていうのを海外の人にも伝えたいんですよね。

「アリョーナみたいに日本中を実際に旅してる人がそう言ってくれるのは、日本人としても嬉しいし、メッセージ性があるね」

アリョーナ




噛み合っているのかいないのか、聡明なツワモノとのコミュニケーションがだんだんクセになってきた。




◇写真:鈴木清美
◇構成:石井ミノル







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