2017.01.23

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.3 (1/4)

黒船ガールとバスさんぽ



日々変わり続ける大都市・東京。



知っているつもりでも発見の絶えないこの街は、

異国から来た彼女にどんな風に映るのだろう。



路線バスの発着地から終着地まで、

気ままにめぐる東京さんぽ。




高71(高田馬場駅前-九段下)都営バス



東京都新宿区は高田馬場。
そこは、都心部を繋ぐJR山手線の駅の中でも、最もカオスな雰囲気を漂わせる街だと言えるかもしれない。


駅周辺には学生ローンの看板が踊り、学生街らしくフレンドリーな定食屋やラーメン店がひしめき合っている。
近年は在日ミャンマー人が多く暮らし、“リトルヤンゴン”とも呼ばれているらしい。



9:00 │ 高田馬場駅前/入り組む熱量

バスストップ


/TAKADANOBABA-EKIMAE



事実、筆者もこの街のミャンマー料理店に行ったことがあるが、雑居ビルの陰鬱とした佇まいからは想像し得ないアットホームな温度といい、日本人には物珍しい、素朴で味わい深いミャンマー料理が楽しめる、なかなか熱いスポットだったと記憶している。



アリョーナ

高田馬場駅早稲田口のガード下には手塚治虫キャラの巨大壁画



今回駅前のバス停で待ち合わせる黒船ガールは、ロシア出身の22歳。





―――はじめまして。アリョーナです。

アリョーナ



吸い込まれそうなブルーの瞳。
世界有数の極めてアンニュイな空気感は、こちらが勝手に抱いているロシアのイメージに沿う。



そして、こんな美しい女性が、現役東大生だというから驚きだ。



「さすがに日本語ペラペラだね」

―――そうですね。でも日本に来た頃には、すでに困らない程度に話せましたね。




ほう、なるほど、初対面でも全く謙遜しない芯の強さ。
幸先のいいスタートだ。



「よろしくね。高田馬場は学生が多いんだけど、東大生にはあまり馴染みないよね?」

―――ないですね。

「せっかくだから、ちょっと歩いてみよっか」

アリョーナ



駅前ロータリーの喫煙所でタバコを吸っているビジネスマンが、アリョーナの姿をさり気なく目で追っている。

冬の朝のカオスに舞い降りた天使のごとく放つ透明感は、まさに眼福といったところか。




「アリョーナは東大の何学部?」

―――法学部政治学科です。

「そうなんだ。あ、こないだプーチン大統領が来日したね。どう思った?」

―――どう思ったと言われても、私たち一般人に届く情報は限られてますから。




そりゃ、たしかにそうだ。



アリョーナ

路地の多い高田馬場は探索も楽しい



「(気を取り直して)じゃあ、プーチンさんの評判ってロシアではどう?日本で見聞きするイメージだと、ちょっと怖いというか、得体の知れない感じもしちゃうけど」

―――まあ、日本の人はよくそう言いますけど、あくまでそれは誰かが都合よく作り上げたイメージなわけじゃないですか。プーチン大統領を怖いって言う人が、なぜそう思うのか、まず理由を教えてほしいんですよね。特に理由なく怖いって言うのは、ナシだと思いますね。

「そ、そっか、そうだよね」




アイスブレイクのつもりだったが、いきなり地雷を踏んでしまった模様。
まあ、政治的な話は、ほどほどにしておこう。
仮に何かの拍子でディベートになっても、勝てなそうだ。



「(気を取り直して)そろそろバス乗ろっか」



10:15 │ 早大理工前/山手線内最高峰

バスストップ


/SÔDAIRIKÔ-MAE



高田馬場駅前からバスに乗って、早大理工前で下車。

目の前、早稲田大学の西早稲田キャンパスには幾何学模様の建物が堂々とそびえ立つ。



そこから我々は、明治通りを挟んでふたつに分かれる戸山公園の箱根山地区へ向かうことに。
箱根山は、山手線内で最も標高が高い人造の山だ。





「さあ、登山するよ!」


アリョーナ



―――山手線内で一番高いって、どのくらいなんですか?

「44.6メートル(笑)」



話しながらテクテクしているうちに、あっという間に登頂。
山道とは程遠いが、自然豊かでなかなか愉快な散歩道だ。




「モデルの仕事は楽しい?」

―――楽しいですね。でもちょっと後悔もしてるんですよ。

「何を?」

アリョーナ

箱根山の頂で



―――ロシアにいる頃、いわゆるプロモデルの世界に何度もスカウトされたんだけど、当時は興味がなかったから相手にしなかったんです。でも結局日本に来て、こうやって学生の傍らモデルの仕事をしてると、短期契約で来日してるプロモデルと同じ現場になることがたまにあるんですね。そこでは彼女たちの仕事の方がモデルとしては断然ランクが上なんだけど、それ見ると私も本当はできたのに!って思っちゃうんですよ。自分がこの世界でどれくらい通用するのか、一度試してみたかったなって。

「なるほどね。でも、さっきから思ってたけど、アリョーナって相当負けず嫌いだよね」

―――すっごい負けず嫌い!頑固です!

「分かる。だって最初に話した時ちょっと怖かったもん」

―――ロシアの親友も、『あなたが何かやりたいって言い出したら、私はそれに従うのが一番楽』っていつも言ってますから。そういう場合は私から離れておいた方がいいですよ(笑)

アリョーナ




「はい了解、そうしまーす」







冬の寒空の下、熱のあるゴングが鳴り響く。

どうか今日一日お互い無事に過ごせますように、なんて。




◇写真:鈴木清美
◇構成:石井ミノル







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