2016.12.26

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.2 (4/4)




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15:25 │ 空港二丁目交差点/地から空へ“入城”

バスストップ


/KUKÔ-NICHÔME-KÔSATEN




「羽田空港にタクシーとか電車で行ったことはあるかもしれないけど、歩いて行くことって、そうそうないよね?」



とっさの思いつきで、サラに“とまります”ボタンを押してもらい降り立ったのが、空港二丁目交差点というバス停。
しかし、なぜここにバス停があるのか不思議なくらい、周囲には何もない。

遠くに見える国際線ターミナルを目指して歩く我々の横を、路線バスやリムジンバスが何台も追い越していく。


サラフィナ



けれども、空港に徒歩で行くという“わざわざ感”も、そこまで悪いものではない。
穴守稲荷神社でいただいた、御朱印やお守りの入った袋を大事そうに持って歩くサラも、まんざらではなさそうだ。




「日本でまだ体験できてない、気になることってある?」

―――山伏修業をやってみたいですね。



そんな予想のはるか斜め上をいく返答にも、良いか悪いかは別にして、もうすっかり慣れてしまった。



「ところで、サラはどうしてモデルになったの?」

―――ママがモデルだったんです。5歳のときに両親が離婚して、パパと暮らしてた話はしましたよね。ママは仕事で世界中いろんなところ飛び回って、たまにしか会えなかったから、私にとってヒーローみたいな存在だった。そんなママがある日仕事の写真をまとめたアルバムを見せてくれて、私もママみたいになりたいって思ったのがキッカケです。


羽田空港国際線ターミナルに到着

羽田空港国際線ターミナルに到着



「じゃあ、サラが日本に行くって言ったときもママは反対しなかった?」

―――全くしませんでしたね。ママは15歳でモデルの仕事を始めて、高校を辞めてヨーロッパに行っちゃったけど、私はちゃんと卒業しましたから。

「それなら、反対したくてもできないね(笑)」



15:55 │ 羽田空港国際線ターミナル/旅立ちと願いの場で

バスストップ


/HANEDA-AIRPORT-INTERNATIONAL-TERMINAL


国際線ターミナルの「はねだ日本橋」。彼女が立つとモードな画に

国際線ターミナルの「はねだ日本橋」。彼女が立つと一気にモードな画に



バスやタクシーが次々とビルの前に停まり、大きなスーツケースを持った人たちが空港の中へと入っていく。

そんな人たちを見ていると、こっちまでなんだかワクワクしてしまう。
日本に8年住んでいるサラにとってここは、どこかへ出かけるための場所なのか、それとも帰るための場所なのか。




羽田空港の国際線ターミナルは、日本橋をモチーフにした「はねだ日本橋」なるものがあったり、「江戸小路」というレストラン&ショップ街があったりと、国内線ターミナルよりもテーマパーク色が強い。
フライトの時間を気にせずブラブラできるのも、飛行機に乗るわけでもないのに空港に遊びに来るような好事家ならではの贅沢と言えるのかもしれない。


江戸時代の町並みを再現したという「江戸小路」

江戸時代の町並みを再現したという「江戸小路」



展望デッキに出て、離着陸する飛行機を眺めながら会話に花を咲かせる。




「サラのお父さんはどんな人なの?」

―――両親が望んだ通り、いい大学入って就職したんだけど、そんな人生をあまり好きになれなくて、仕事を辞めてヨーロッパで油絵の勉強を始めたような人。私のアート好きはパパの影響です。去年、亡くなってしまいましたが。

「そうなんだ」

―――ニューヨークの実家にひとりで住んでたんですが、パパが病気だったことを誰も知らなかったんです。亡くなる前日の午前3時に「今からスカイプしよう」っていきなりLINEが届いたんだけど、「明日撮影だからまた今度ね」って返事したんです。次の日、何度かLINEのやり取りをして、あるときを境に既読マークが付かなくなっちゃって。


涙とステキな笑顔

涙とステキな笑顔



「なんか辛いこと思い出させちゃったね」

―――ううん、パパの話するの好きなんですよ。いつも泣いちゃうけどね。病気を秘密にしてたのは、もし私が知ったら日本での生活とか夢を全部捨てて、パパのところに行くってことが分かってたからだと思うんです。

「夢って?」

―――私個人のワガママな夢は、VOGUEのカバーモデルになって、ママに見せること。ヴィクトリアズ・シークレットのモデルも、いつか絶対にやってみたい。でも、もう少しリアルな目標で言うと、稼げたら何でもオッケーかな。

「目の前の現実的な目標も必要だからね」

―――パパが亡くなった頃は、モデルの仕事もまだ全然うまくいってなくて、何も助けてあげられなかったから。その分ってわけじゃないけど、ママにはいろんなことをやってあげたくて。「日本に遊びに行きたい」って言ったら、すぐにチケットを買ってあげたいし、「週末ミラノで美味しいディナーを食べたい」って言ったら、すぐに連れて行ってあげたい。


羽田空港




サラは両親を愛し、そして愛されて育ったのだろう。

こんなにもストレートに愛情を表現できることが、羨ましくなってしまうほどに。
彼女の前では、自分は日本人だからという言い訳はナシだと分かっているだけに、強くそう思う。





―――パパが亡くなったのは私の人生で最悪の出来事だったけど、それのおかげでいろんなことに気づいて、成長することができた。だから、亡くなったことに感謝してるんです。変な言い方だけどね。





涙を拭い、彼女は綺麗に笑った。


サラフィナ




 17:10 
 羽田空港国際線ターミナルにて




◇写真:鈴木清美
◇構成:石井ミノル







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