2016.12.21

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.2 (3/4)




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13:20 │ 六間堀/異界への誘い

バスストップ


/ROKKENBORI



大鳥居からバスに乗り、ふたつ先の停留所「六間堀」で下車。


住宅、商店、町工場が入り交じったようなエリアだが、住所はすでに“羽田”になっている。


日本通のサラは、神社仏閣も好物のようだ。


サラフィナ

おどけているが、手水舎での作法もバッチリ



―――好きなのは、京都の三十三間堂と高台寺です。高台寺は秀吉が亡くなってから、ねねが建てたお寺ですね。

見事な解説である。



こちらも負けじと、辿り着いた穴守稲荷神社(あなもりいなりじんじゃ)について説明する。

「この神社は江戸時代に建てられたんだけど、堤防が決壊したときに村人たちが神様を祀って水害を鎮めたんだって。それで、堤防にあいた穴から村を守るという意味で、穴守稲荷神社って命名されたらしい」




当時海がすぐそばに迫っていたこの一帯では、海水浴や潮干狩りが楽しめたうえに、明治時代には温泉も湧いたことから、旅館や芸者の置屋が門前に軒を連ねて賑わっていたそうだ。




「京都が好きだったら、伏見稲荷大社は行ったことあるかな?穴守稲荷神社みたいにお稲荷さんを祀っている稲荷神社は日本中にたくさんあるけど、その総本山が伏見稲荷大社だね」


サラフィナ


早速サラのテンションを上げたのは、朱色の鳥居がトンネル状に連なる千本鳥居。

伏見稲荷大社のそれと比べるとコンパクトだが、実際くぐってみると、まるで異界へいざなう通路のようで幻想的だ。




鳥居を抜けると“お穴さま”と呼ばれる奥の宮があり、社の中には小さな鳥居が今にも崩れ落ちそうなくらい積み上げられていた。


サラフィナ



―――スゴいですね。



鳥居の山の背後から、大小さまざまなキツネの置物が、じいっとこっちを見つめている。





サラは、ご利益があるという異界の砂を、うやうやしく袋に詰めていた。


サラフィナ

御朱印をいただいて嬉しそう。友人と自分のためにお守りも購入



14:45 │ 空港入口/ワケありの大鳥居

バスストップ


/KUKÔ-IRIGUCHI



穴守稲荷をあとにして、再び六間堀でバスに乗車。


それから、ほんの数分走ったところに突如大きな赤い鳥居が現れ、その異様な光景に反応し慌ててバスを降りた。




―――なんでこんなところに、鳥居があるんでしょうね。

「穴守稲荷神社は、もともとはこの場所にあったみたいだね」


サラフィナ



現在は羽田空港の敷地になっている場所にあった穴守稲荷神社は戦後、米軍が羽田空港を拡張する際に強制退去を命じられる。
しかし、鳥居を撤去しようとする折、立て続けに事故が起こったために、鳥居だけがこの場所に残されたのだという。


そんなオカルトを聞いて触発されたのか、サラも不思議なことを言い出した。


―――私、生まれる前は男性だったんです。

「へ、どういうこと?」

―――お母さんのお腹にいたときのエコーの写真もあるんですけど、どう見ても男性でした。

「じゃあ、両親も男の子が生まれてくるって思ってたの?」

―――そうみたいなんですけど、生まれる間近になって、なぜかお母さんが「この子は女の子になる!」って急に言い出して、お医者さんからは「もう男の子で決まってますから!」って言われたらしいです。女の子の名前も全然考えてなくて、私、スティーブンになるはずだったんです。

「その顔でスティーブンねぇ」

―――だからってわけじゃないんですけど、幼稚園の頃から男の子の友だちが周りに多くて、今でもそうなんですよね。男性と一緒にいる方が楽というか。5歳のときに両親が離婚して、お父さんと一緒に暮らしてたからっていうのもあるかもしれないけど。


サラフィナ

空港の入り口に立つ大鳥居



なるほど。
彼女の中性的な印象はそういうところも関係しているのかもしれない。




「日本人の男性はどう?恋愛対象として」

―――自分の気持ちをあまり話さないですね。お父さんもそういうタイプだったから、全然慣れてるんですけど、そうじゃないコは怒ったりすると思う。

「結婚願望はある?」

―――したいとは思うんですけど、多分しないと思います。

「え、どうして?」

―――自分で言うのもあれだけど、私は自分を強い人間だと思ってるから。やりたいことをやりたいし、束縛も絶対されたくない。逆に相手を束縛して嫌な気持ちにもさせたくないから、結婚しない方が上手くいく気がするんですよね。だって結婚すると、皆変わってしまうじゃないですか。


サラフィナ



大鳥居を見上げながら、「そういうもんなのかなぁ」とつぶやく。



―――そういうもんですよ。きっと。

サラも呼応するように、つぶやいた。






◇写真:鈴木清美
◇構成:石井ミノル







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