2016.12.07

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.2 (1/4)

黒船ガールとバスさんぽ



日々変わり続ける大都市・東京。



知っているつもりでも発見の絶えないこの街は、

異国から来た彼女にどんな風に映るのだろう。



路線バスの発着地から終着地まで、

気ままにめぐる東京さんぽ。




蒲31(蒲田-羽田空港)京急バス




彼女はちゃんと来てくれるのだろうか。




JR蒲田駅東口のロータリーを出入りする京急バスを眺めながら、朝から一抹の不安を覚えていた。
待ち合わせの相手が外国人でなくても、蒲田というのは少々トリッキーな駅なのだ。



9:00 │ 蒲田駅(東口)/JR or 京急?

バスストップ


/KAMATA-EKI-HIGASHI-GUCHI



JR蒲田駅と京急蒲田駅は、同じ“蒲田駅”ということで隣接していると思われがちだが、実際は離れていて徒歩で10分以上もかかってしまう。


だから蒲田駅で待ち合わせをする際には、「JRと京急のどっち?」みたいなやり取りが必ず生じる。
もちろん今回も「JRの方!」と念押ししているものの、相手が現れるまでは“もしかしたら”という不安は拭えない。


サラフィナ

蒲田駅(東口)の停留所でバスを待つ



モデルの彼女はスタイルが良く相当目立つはずで、こちらから見つけて声をかけようと思い、あたりをキョロキョロしていると、


―――おはようございます!!

と、背後から声をかけられ、いきなり挙動不審なところを見られてしまった。




アメリカからやって来たサラフィナの第一印象はクール・ビューティ。
ストレートのブラウンヘアはエレガントだが、醸し出す雰囲気はどこか中性的。
しかも、外国人らしからぬ奥ゆかしさを感じさせる。



―――サラと呼んでください。

「よろしく、サラ。バスに乗る前に行きたいところあるんだけどいいかな?その後ここに戻ってきて、バス乗りましょうか」



若干の馴れ馴れしさと敬語の混じった、距離感を計りかねる微妙な口調で提案すると、サラはほんの少しおどけた表情を浮かべながら、右手を額の横にかざして敬礼ポーズを取った。


―――了解です!


童心に返って遊ぶサラフィナ

童心に返って遊ぶサラ



そんな可愛い仕草を見て、ニヤニヤしているのを悟られぬよう、そそくさと彼女の前を歩く。





「サラの出身は、アメリカのどこ?」

―――マンハッタンです。

「へぇ、都会っ子なんだね」




そして、アメリカ人の彼女に聞いてみたいことがあった。

「キミの国の次期大統領がついに決まったね」




サラは「そう来たか」というような、ちょっと困った顔を一瞬だが覗かせた。




「まあキミの政治的な意見を聞きたいわけじゃないんだけど、今回の選挙の結果をアメリカの人たちが、どんな風に捉えているのかなと思って」

―――結果を知ったときは、多くの人がそうだったように、正直信じられなかった。私にはトランスジェンダーとかゲイの友だちもたくさんいるし、トランプさんは女性に対しても差別的なことをいろいろ言ってたでしょ。だから心配になって、友だちやお母さんにメールしたりして。だけど大統領に決まってから、言うことが結構変わってきてるから、今は様子を見てる感じかな。だってネガティブをネガティブで返しても、ポジティブにはならないから。

「前向きな考え方だね」

―――こう言えるのは、私が今、アメリカに住んでいないっていうのもあると思うけど。




彼女の話を聞いていると、支持政党や政治的意見が食い違い、友人関係にヒビが入るような人が周りにいたりするなど、いろんな余波がいまだにあるという。
日々ニュースで見聞きしていることではあるわけだが、アメリカ人から直接聞くとやはり重みがある。

電車からも見えるゴジラが人気の通称“タイヤ公園”

電車からも見えるゴジラが人気の通称“タイヤ公園”



―――ここ、私が通ってた小学校みたい。


到着したタイヤ公園こと西六郷公園を見て、サラが言った。
最近ボクシングを習い始めたという彼女は運動神経がいいようで、タイヤで作られたゴジラに軽々とよじ登る。



注意を促すと、

―――ぜ~んぜん大丈夫です!!

と、子どもみたいに笑った。


10:10 │ あやめ橋/消えたあやめ畑

バスストップ


/AYAME-BASHI



再びJR蒲田駅へと戻り、水色と赤のカラーリングが鮮やかなバスに乗車。




羽田空港行きだけに、大きなスーツケースを持った人や外国人もいる。

江戸時代は辺り一帯があやめでいっぱいだったというあやめ橋を通過し、京急蒲田駅へ。

サラフィナ




「サラは日本に来て何年?」

―――8年です。

「長いねぇ!きっかけは?」

―――X JAPANのhideが好きで……。




おいおい、MIYAVIの次はhideか!
参照:黒船ガール×路線バス vol.1(1/4)




―――日本語を勉強し始めた頃に、アメリカ人の先輩が「日本の音楽を聴くといいよ」って、ミックスCDを作ってくれたんです。X JAPANとかLOUDNESS、黒夢、BUCK-TICKとかいろいろ入ってたんだけど、hideの作った『ROCKET DIVE』っていう曲がすごく気に入って。そのときはもう亡くなっていたけど。




…ジャパニーズ・ロック恐るべし。



サラフィナ



―――それと、私ロボットが大好きなんです。hideを好きになったのと同じくらいの時期に、アメリカのテレビで『人造人間キカイダー』が放送されてて、めちゃくちゃハマりました。

「作者は誰だっけ?」

―――石ノ森章太郎です!




まさか石ノ森章太郎の名前が、このクール・ビューティの口からサラリと出てくるとは。




―――2011年の大震災のときに東北へボランティアに行ったんですけど、石巻でバスを降りたら『サイボーグ009』のキャラクターがいて、泣きました!!





…うん、今回もなかなか手ごわい相手のようだ。(いい意味で)



サラフィナ



―――私、見た目と違うってよく言われるんですよね。


そう言ってサラは、不敵な笑みを浮かべた。





◇写真:鈴木清美
◇構成:石井ミノル







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