2016.11.28

黒船ガール×路線バス:CITYSCAPE vol.1 (4/4)




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14:20 │ 勝どき橋南詰/歴史を見つめる川

バスストップ


/KACHIDOKIBASHI-MINAMIDUME



築地六丁目でバスに乗って晴海通りを直進すると、勝どき橋に出た。




―――うわぁ、大きい川だね。


突然開けた視界に、ジェリーは興奮気味につぶやく。




「隅田川だよ。毎年大きな花火大会やってる川」

―――勝どき橋の“勝”って、勝ち負けの勝ちだよね。どうしてそんな名前なの?

隅田川に架かる勝どき橋を渡るバス

隅田川に架かる勝どき橋を渡るバス



調べてみると、日露戦争の勝利を記念して、築地と月島の間を結んだ渡し舟に由来しているらしい。
しかも、ふたつのアーチを持つこの橋は、日本に現存する数少ない可動橋で、大きな船が通れるように中央部がハの字型に開く構造になっている。

といっても交通事情が変わったため、最後の開閉が行われたのは45年以上も前の話であり、開閉時は約20分間、晴海通りが通行止めになっていたそうで、現在ならおそらく大クレームものだが、それが許されていた時代ののんびりさを想像してちょっと羨ましくもなってしまう。



―――昔、お父さんの仕事の関係で、よく湖に連れて行ってもらってたから、水のあるところはなんだか落ち着くの。



ジェリーも隅田川を眺めながら、目の前とは異なる景色に思いを馳せているようだ。

ジェリー・ピーチ



14:40 │ 晴海埠頭/出会いと別れの地

バスストップ


/HARUMI-FUTÔ



勝どき橋を渡ると、街の雰囲気がガラリと変わり、タワーマンションが目立つように。
バスを乗り降りするのも、ビジネスパーソンよりも子ども連れの主婦やお年寄りの姿が多くなる。



しかし、終点の晴海埠頭に着く頃、車内は我々だけになってしまった。

ジェリー・ピーチ



晴海埠頭は東京の海の玄関と言われるだけに、もっと賑やかで、かつ華やかな場所をイメージしていたが、降り立ったのはだだっ広く、どことなく寂しささえ漂っているような場所だった。


人が少ないから、余計にそう感じるのだろうか。


出会いと別れの場に堆積したさまざまな人の思いが、感傷的な気分にさせるのかもしれない。
だけどこういう雰囲気も、たまには悪くない。



川と呼ぶべきなのか、運河と呼ぶべきなのか、それとも海と呼ぶべきなのか、その先には豊洲新市場が“立派に”建っている。

行く末が注目される豊洲市場

行く末が注目される豊洲市場



「豊洲問題って知ってる?」

―――詳しくは分からないけど、ニュースでよくやってるね。


「日本っておかしな国だなって思わない?」

―――どうかなぁ。



ジェリーは意味ありげに笑う。



―――日本に来たばかりの頃、私にとって日本はあまりにも完璧なイメージで、フランスのことがあまり好きじゃなかったの。だけど今は、バランスが取れてきた感じかな。

ジェリー・ピーチ



「こっちで過ごす時間が長くなるほど、いいところだけじゃなくて、悪いところも見えてくるだろうからね。日本のどんなところが嫌い?」

―――「しょうがない」って言葉を使いすぎるところ。豊洲みたいな大きな問題だけじゃなくて、ちょっとした問題とかも、すぐに「しょうがない」って言っちゃうところはすごく不思議。「いや、そこはしょうがなくないじゃん!」っていつも思う。



たしかに、それは無意識のうちに口にしている言葉かもしれない。



―――フランスは革命起こしちゃうくらいの国だから、そんな風には考えないの。逆に私の方が「それはもう“しょうがない”でいいよ!」って言いたくなるくらいだから(笑)。フランスには「戦いを選んだ方がいい」っていうニュアンスのことわざがあるんだけど、そんなことで戦ってしまうのはもったいないよって思っちゃう。そういう時こそ“しょうがない”んだよって。

晴海ふ頭公園のオブジェ。風が吹くと金属のキューブがくるくる回転する

晴海ふ頭公園のオブジェ。風が吹くと金属のキューブがくるくる回転する



お昼ごはんを食べながら、ジェリーが「自分がナニジンなのか分からなくなる」と言っていたのは、こういうジレンマも一因にあるのだろう。



「これからも日本で暮らしたいと思ってる?」

―――そうね。日本がいい。私もそうだけど日本にいる外国人って、単に海外に住みたかったっていうんじゃなくて、日本だから住みたいとか、日本以外は考えられないような人が多いんだよね。私も、もし今すぐ日本を離れなければいけないってことになったら、目の前が真っ暗になっちゃうかな。日本以外での生活とか人生が、今は全然想像できない。


「この先、やってみたいこととかあるの?」

―――私は、音楽と人、このふたつを一番大切にしてるの。エマ・ワトソンって女優がいるでしょ。彼女は『ハリー・ポッター』でスターになったけど、今は女性の権利についていろいろ活動してて、フェミニストのアイコンになってるの。私も音楽を通して、そういうメッセージを伝えていくのが夢。だから、今はここで頑張らなくちゃ。

ジェリー・ピーチ



いつか東京で彼女が歌っている姿を見てみたい。

目をキラキラさせて夢を語る横顔を見て、そう思った。




 16:35 
 晴海埠頭にて




◇写真:鈴木清美
◇構成:石井ミノル







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